第746回 東京定期演奏会〈秋季〉12/9(金)19:00、12/10(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://japanphil.or.jp12/23(金)13:30 王子ホール問 王子ホールチケットセンター03-3567-9990 https://www.ojihall.jp61銀座ぶらっとコンサート #177 吉井瑞穂 鎌倉 to 銀座 Vol.4オーボエの名手が描く日本へのノスタルジー マーラー室内管弦楽団の首席奏者として(2000年から2022年まで在籍)、そのオーボエが放つ芳醇な響きと、思慮深くも才気に富んだ音楽性で世界の聴衆を魅了してきた吉井瑞穂。2017年には四半世紀を過ごしたドイツを離れて故郷の鎌倉に拠点を移し、ソロや室内楽に意欲的な試みを展開中だ。 王子ホールを舞台として2019年に始まった“鎌倉 to 銀座”もそのひとつ。今回の“Vol.4”のテーマは「西欧から見た日本、日本から見た西欧、その芸術と対話」。上記のタイトルの後に“to パリ”と書き添えれば話も早かろう。プログラムの核をなすのは、1930年代にパリで学んだ平尾貴四男が、病で早世する前に完成させた遺作のソナタ(1951)と、自らもオーボエ奏者だったフェリシアン・フォレが1930年代に書き上げた、牧歌的題材に基づく知られざる佳品。前者の第1楽章、そしてなにより後者に立ち込める野外の空気感は、大島ミチルの下野竜也 ©Naoya Yamaguchi進で始まり、長く冷たい暗闇の中に消えていく。戦後まもなくして行われた初演では、それが戦争の惨禍を描いているのだと誰もが感じたという。 このプログラミングは理不尽な暴力や戦争の残酷さ、平和への希求を描いた20世紀イギリスの音楽という共通点吉井瑞穂 ©Marco Borggreve「風笛」や新井満の「千の風になって」はもちろん、静謐な音調の彼方に幻惑的な景観が現れては消えるアルヴォ・ペルトの「鏡の中の鏡」とも呼応を遂げる。そこへさらに奥行を添えるのが、吉井が鎌倉で主宰する演奏会シリーズでもタッグを組んできた、パリでの留学経験を持つ鈴木純明の新作…。文:江藤光紀文:木幡一誠糸賀修平を持っており、絵画やバロック期の詩を参照しながら、それが人類にとって普遍的な悩みであり願いであることを訴えているのである。歴史に学ぶ――国家の対立と冷酷な破壊が再び戻ってこようとしている現在、これほどアクチュアルなプログラムがあるだろうか。黒岩航紀 ©武藤 章 巨匠指揮者や綺羅星のごときソロイストとの共同作業を通じて西欧の水に深くなじんできたオーボエ奏者が、その経験をもとに邦人作品と対峙し、欧州の楽曲をニッポンジンの感性で読み解く。黒岩航紀のピアノとともに銀座の午後のひととき、双方向的な音楽の旅をリラックスしながら楽しんでみたい。下野竜也(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団20世紀イギリスプログラムに込める、平和への希求 下野竜也は知られざる曲を積極的に紹介してきた指揮者だが、12月の日本フィル定期ではイギリスをテーマに、攻めたプログラミングを聴かせてくれる。 まず前半はヴァイオリンとオーケストラが美しい綾を織りなすフィンジ「入祭唱」op.6でしめやかに始まり、タネジ「3人の叫ぶ教皇」へつなぐ。イギリスの画家フランシス・ベーコンが描いた異形の教皇の姿にインスピレーションを受けた本作は、暴力的な音響をポップな感性でまとめあげ、タネジの出世作のひとつとなった。そこからまたフィンジに戻り「武器よさらば」。17世紀の詩人の詩句に付曲した、古典的かつ抒情的なたたずまいを持った本作を歌い上げるのは、新国立劇場や二期会で活躍するテノール糸賀修平。ちなみにこの3曲は休憩を入れずに一続きで演奏する予定と聞く。 後半はヴォーン・ウィリアムズの交響曲第6番。戦争末期から書き始められた本作は急降下爆撃のような激しい突
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