eぶらあぼ 2022.12月号
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46Interview千住真理子(ヴァイオリン)旧知のマエストロとの傑作コンチェルトで祝う2023年の幕開け取材・文:片桐卓也 日本を代表する指揮者・小林研一郎が1987年から97年にかけて常任指揮者と音楽監督を歴任したハンガリーの名門オーケストラ、ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団は創設100周年を迎え、新年早々に来日公演を行う。指揮はもちろん小林で、ソリストとして千住真理子(ヴァイオリン、2023.1/16)と仲道郁代(ピアノ、1/17)が参加し、サントリーホールでは2日連続で開催される。千住に、今回の来日公演に向けた抱負を聞いた。 「音楽ファンの皆さんは『炎のコバケン』と呼んでいらっしゃいますが、コンサートでのマエストロは本当にオーラを発していて、私から見ると、マエストロの身体の細胞ひとつひとつに音楽が満ちていて、それが本番で発散され、コンサートホールが音楽で満たされるような感覚になります」 これまでにも小林&ハンガリー国立フィルと共演を重ねてきた彼女は、マエストロとオーケストラの特別な関係を、こんな風に表現してくれた。 「コバケン先生はオーケストラを引っ張るというよりも、メンバーが奏でる音色に刺激を受けて、そこからさらに奥深い表現を引き出そうとするような印象があります。それを特に感じるのがハンガリー国立フィルとの共演の時です。オケのメンバーはそれぞれ個性的な音色の持ち主で、マエストロはその音色や演奏を聴き、そこから何か新しいインスピレーションを受けて、タクトで表現していきます。それがいつもフレッシュで、特別な演奏を生み出す秘密なのかもしれません」 今回のコンサートで、千住はブルッフの傑作「ヴァイオリン協奏曲第1番」を演奏する。この曲は何度もコンサートで演奏してきた作品だが、常に新しい発見があると語る。 「作曲家は初演後に何度も改訂を重ねていますが、その相談相手というのが作曲当時の名手ばかりで、特にハンガリー出身のヨアヒムが大きな役割を果たしています。あまり技巧的に感じられないのは、ブルッフの書いた音符が常にメロディに満ちているからです。細かい音符による速いパッセージの中にも、魅惑的なメロディが隠されていて、それを拾い上げていくのが実はとても大変です。また重音を要求している箇所も多くて、それを充分に聴かせるというのも難しいところ。第3楽章はアレグロ・エネルジコで、その冒頭にはオーケストラの弦による弾むような音型が出てきますが、そういう部分も、もしかしたらヨアヒムから影響を受けたのかもしれませんね。ハンガリー国立フィルがどんな風にそこを演奏してくれるのか、今から楽しみです」 炎のマエストロと千住の接点は意外なところにもあった。 「私のプロフェッショナルとしてのデビューはNHKの『若い芽のコンサート』だったのですが、その時に若手指揮者として登場していたのが実はコバケン先生でした。つまり、デビューはハンガリー国立フィル創立100周年記念コンサート小林研一郎(指揮) ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団新年の幕開けを告げる“新世界”(千住真理子出演) 2023.1/16(月)王道の名曲プログラム(仲道郁代出演) 1/17(火)各日19:00 サントリーホール問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 https://www.japanarts.co.jp※ツアーの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。他公演1/18(水) 福岡シンフォニーホール(092-725-9112)1/19(木) 愛知県芸術劇場 コンサートホール(テレビ愛知事業部052-229‐6030)1/21(土) 鎌倉芸術館(神奈川芸術協会045-453-5080)1/22(日) 大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)新型コロナウイルスの影響で、公演やイベントが延期・中止になる場合があります。掲載している公演の最新情報は、それぞれの主催者のホームページなどでご確認ください。同期なのです。それ以降、たくさん共演させていただいているのも何か深い縁があると感じます。これからもお互いに音楽を深く掘り下げていく関係でありたいと思っています」 千住の出演する1月16日のコンサートはベートーヴェンで幕を開け、ブルッフの後にはドヴォルザークの傑作交響曲「新世界より」が待つ。希望に溢れる新年の門出となりそうだ。©Kiyotaka Saito(SCOPE)

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