eぶらあぼ 2022.12月号
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ベートーヴェン 三大ピアノソナタ 〜松本和将ライブシリーズ10ラフマニノフ:チェロ・ソナタ/宮田大フォリオス 武満徹・ギター作品集/谷辺昌央武満徹:フォリオス、ギターのための12の歌、すべては薄明のなかで―ギターのための4つの小品―、森のなかで―ギターのための3つの小品―、エキノクス、ギターのための小品―シルヴァーノ・ブソッティの60歳の誕生日に―/レス・リード&バリー・メイソン(武満徹編):ラスト・ワルツ谷辺昌央(ギター)ベートーヴェン:ピアノ・トリオ全集・Ⅲ/野平一郎&漆原啓子&向山佳絵子CDCDCDCD134「単に娯楽として弾くのなら、この音楽から離れた方が良い…生死を賭して、弾くべきものだから」。松本和将が弾く「悲愴」冒頭のコードを聴いた瞬間、巨匠バレンボイムがベートーヴェンのソナタに関して語った言葉が、ふいに頭をよぎった。魂を込めたひと打ちとともに、あふれ出す音楽。20代後半~30代半ばに書かれた3曲は、晩年のように屈折したものではなく、青年らしい、率直な楽聖の感情を反映している。真正面からこれらを受け止める真摯な松本のプレイは、鏡のごとく澄んで明晰。このライブ録音は、聴衆の間へ静かに波及してゆく、感情の空気感すら具に捉えている。 (笹田和人)中堅の域に入りつつある宮田大の最高の充実を示す、彼の代表盤となるであろう一枚。万全のテクニックを土台に、木の温もりと心のこもった音色で聴くラフマニノフの魅力的なこと!明快に構築しながら情感は豊か、各楽章の胸に迫るメロディで高まっていく場面の高揚感には唸らされるばかり。それも宮田が10年以上共演を重ねるジェルネの安定と輝きを誇るピアノがあってこそで、もともと「ピアノとチェロのためのソナタ」と題されていた本作の理想像ともいえる“協演”が実現したのである。カプースチンの3曲で見せる両者の切れ味とセンスも抜群で、特に「ブルレスク」は痛快!  (林 昌英)ギターは武満徹という作曲家の個性どころか人柄までをも映し出す楽器ではなかろうか。冒頭の「フォリオス」からビートルズの編曲に何の違和感もなく移行。懐かしのメロディーがフラジオレットの描き出す星の煌めきに接続し、ポップソングを妖しい闇の雰囲気が包み込む。ギターという楽器を通じてそれらに形が与えられる際に現れる一つの気分、木の葉が舞うように空間に消えていく音色のもののあわれに、“武満なるもの”を感じずにはいられない。谷辺昌央は深い呼吸と正確なテクニックで、作品像を一点の曇りなくシャープに描き出した。楽器と共に音楽を抱きしめているようなぬくもりを感じる。(江藤光紀)野平一郎のピアノ、漆原啓子のヴァイオリン、向山佳絵子のチェロによるベートーヴェンのピアノトリオ作品全集がいよいよ完結である。本シリーズⅠ・Ⅱと同様に、2枚組CDに収められたⅢの演奏はいずれも、2020年11月に開催されたコンサートのライブ録音である。Disc-1にはWoO38と39、さらにこの編成のための2作の変奏曲が収められ、多楽章のピアノトリオの最後を飾る第7番「大公」がDisc-2に収録されている。名手3人の洗練された音楽の調べは会場の王子ホールの豊かな残響とともに響き、生演奏の生き生きとした雰囲気が会場の拍手とともに蘇る。(飯田有抄)ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」、同第21番「ワルトシュタイン」、同第23番「熱情」松本和将(ピアノ)ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調、「パガニーニの主題による狂詩曲」より〈第18変奏〉(ジュリアン・ジェルネ/宮田大編)/カプースチン:ニアリー・ワルツ、エレジー、ブルレスク宮田大(チェロ)ジュリアン・ジェルネ(ピアノ)ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 変ホ長調 WoO38、同変ロ長調 WoO39、同第7番「大公」、ディッタースドルフの主題による14の変奏曲、「仕立て屋カカドゥ」の主題による変奏曲野平一郎(ピアノ)漆原啓子(ヴァイオリン)向山佳絵子(チェロ)収録:2020年11月、王子ホール(ライブ)ナミ・レコードWWCC-7974-5(2枚組) ¥3300(税込)収録:2021年11月、浜離宮朝日ホール(ライブ)オクタヴィア・レコードTACD-159 ¥3300(税込)日本コロムビアCOCQ-85594 ¥3300(税込)コジマ録音ALCD-7286 ¥3080(税込)

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