eぶらあぼ 2022.12月号
135/161

CDCDSACDCD132ベートーヴェン:交響曲全集1 交響曲第1番・第2番&第7番/アントネッロ・マナコルダ&カンマーアカデミー・ポツダムプーランク:ナゼルの夜会/伊藤曜子シェーンベルク:月に憑かれたピエロ/工藤あかね&廻由美子モーツァルト・ベートーヴェン フォルテピアノと管楽器のための五重奏曲/重岡麻衣&レ・ヴァン・ロマンティーク・トウキョウこれまでとは違う何かがなければ、無数にあるベートーヴェン全集に一篇を加える意味はない――設立20年目を迎えたカンマーアカデミー・ポツダムがマナコルダとスタートさせたプロジェクトからは、そんな気構えが伝わってくる。第一弾の第1、第2、そして舞踏交響曲とも言うべき第7番には、彼らのアプローチの特徴が端的に表れている。パンチが効いていて心地よい打撃音が耳朶をうち、よく整理されたアーティキュレーションでスコアを隅々まで透視する。心持ち速めのテンポながらも、急ぎすぎず音の運動を自然なドラマとして立体的に構築する。21世紀の規範的なベートーヴェン像ではないか。(江藤光紀)フランス音楽をレパートリーの核とした演奏活動で着実にキャリアを重ねている伊藤曜子。藤井一興に師事し研鑽を積む彼女の音色は研ぎ澄まされた輝きを放ち、楽曲の魅力を鮮やかに引き出していく。プーランクの「ナゼルの夜会」は各変奏を描き分けるための音色の多彩さ、強弱の幅の広さが求められるが、伊藤は見事にタッチをコントロールし、楽曲のキャラクター性を浮かび上がらせている。これはメシアンで聴くことができる指の強さ、俊敏さがあってこそ実現できるものであろう。師と奏でる2台ピアノのための協奏曲も力強さと繊細さのコントラストが魅力的だ。 (長井進之介)マーラーやブルックナーの交響曲を室内楽編成にアレンジしているエルヴィン・シュタインによる、ピアノ伴奏版に編曲された師匠筋シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」初の正規録音。切り詰められた編成で各楽器の音色を表現主義的に先鋭化させた原曲に勝るとも劣らぬ効果をピアノ1台から引き出していて本当に見事。工藤あかねの歌は正統的な歌唱から逸脱するような、いわばブレットルリーダー(キャバレーソング)的に濃厚な表現を聴かせ、これが成功、面白い! 対して廻由美子は鮮烈なタッチと音色変化の妙で工藤を迎え撃つ。併録が「蘇州夜曲」とはちょっと不思議だけれどこの対比がまた効いている。(藤原 聡)レ・ヴァン・ロマンティーク・トウキョウは、三宮正満と福川伸陽中心のピリオド管楽器のアンサンブル。ピリオド楽器での傑作ピアノ五重奏曲はおそらく日本初。待望のアルバムだ。管楽の名手たちの演奏はいずれも貴重。なかでも福川のナチュラル・ホルンは面白い。音階でも均質ではなく、様々な音が聴こえて味わい深い。ベートーヴェンの緩徐楽章が聴きどころ。フォルテピアノの重岡麻衣の繊細な音色の使い分けもいい。ベートーヴェンは自らの腕を誇示するために主題はいつもピアノで始めるが、そこがまたチャーミング。モーツァルトは楽器の組み合わせが絶妙で、とても美しい。まさに耳の愉悦。実に楽しい。(横原千史)ベートーヴェン:交響曲第1番・第2番・第7番アントネッロ・マナコルダ(指揮)カンマーアカデミー・ポツダムプーランク:ナゼルの夜会、2台のピアノのための協奏曲 ニ短調/フォーレ:夜想曲第4番/メシアン:「鳥のカタログ」より〈第2番 キガシラコウライウグイス〉〈第12番 クロサバクヒタキ〉伊藤曜子 藤井一興(以上ピアノ)延原武春(指揮)テレマン室内オーケストラ収録:2013年3月、いずみホール(ライブ) 他マイスター・ミュージックMM-4511 ¥3300(税込)シェーンベルク(エルヴィン・シュタイン編):月に憑かれたピエロ(ピアノ・リダクション版)/服部良一(廻由美子編):蘇州夜曲工藤あかね(ソプラノ)廻由美子(ピアノ)モーツァルト:五重奏曲 変ホ長調 K.452/ベートーヴェン:五重奏曲 変ホ長調 op.16重岡麻衣(フォルテピアノ)レ・ヴァン・ロマンティーク・トウキョウ【三宮正満(オーボエ) 満江菜穂子(クラリネット) 福川伸陽(ホルン) 村上由紀子(ファゴット)】ソニーミュージックSICC 30701〜2(2枚組) ¥3960(税込)妙音舎MYCL-00033 ¥3520(税込)コジマ録音ALCD-1213 ¥3080(税込)

元のページ  ../index.html#135

このブックを見る