eぶらあぼ 2022.11月号
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第9回 野島 稔・よこすかピアノコンクール優勝記念公演本堂竣哉 ピアノ・リサイタル11/23(水・祝)14:00 よこすか芸術劇場問 横須賀芸術劇場046-823-9999 https://www.yokosuka-arts.or.jp11/29(火)19:00 Hakuju Hall問 ビーフラット・ミュージックプロデュース03-6908-8977 https://www.bflat-mp.comInterview本堂竣哉(ピアノ)登竜門を制した新鋭が挑む「ゴルトベルク変奏曲」 5月にコロナ禍を経て4年ぶりに開催された「第9回 野島稔・よこすかピアノコンクール」で第1位を受賞した本堂竣哉は北海道北見市出身。藝大附属高を経て4月から藝大の1年生になったばかり。第2次予選では本コンクールの特長であるベートーヴェンのピアノ・ソナタ課題から第28番を選択し、「正統的かつデモーニッシュな」演奏を披露。本選ではJ.S.バッハのゴルトベルク変奏曲で「演奏会さながらに聴衆を魅了」したという。 「5歳のときにグレン・グールドのゴルトベルクに出会って衝撃を受け、それからはずっとバッハの音楽がいつも自分の近くに存在している気がします。でもベートーヴェンも敬愛していますし、もともとバロック以前の古楽にも興味があって、高校で同好の友だちをみつけてさらにどっぷり(笑)。中世・ルネサンスあたりまで深掘りして、特に(15~16世紀に活躍したフランドル楽派の)ジョスカン・デ・プレが凄く好きですね。一方で新ウィーン楽派の3人やそれ以降の現代音楽も熱心に聴きますよ」 とはいえバッハへの熱い想いは別格だ。11月23日にコンクール会場と同じ「よこすか芸術劇場」で開催される優勝記念公演であらためて披露される〈アリアと30の変奏曲〉に今から大いそのもののような深くて精緻な美しさが立ち上る曲たちだ。 昨年の東京音楽コンクールで第2位と聴衆賞を獲得した花房英里子(メゾソプラノ)と、一昨年の日本音楽コンクール第1位の小林啓倫(バリトン)。青年期のマーラーが作曲した16曲を適切に歌い分け、深さと同居する瑞々しさも引き出すだろう(ピアノは朴令鈴)。プロジェクションマッピングで投影される絵に期待したい。 「イギリス組曲やフランス組曲、パルティータには日常に根ざしたロマンがあって弾くのが楽しく、平均律クラヴィーア曲集には心をリセットして視界をクリアにしてくれるような効果を覚える。そして最晩年の作品であるフーガの技法が持つある種の到達した境地…まるで過ぎ去った時間を振り返るようにして戻っていく感じも素晴らしいと思いますが、ゴルトベルク変奏曲はいわば“終わりなき”旅。鍵盤に向かうと曲が常に何かを提示して先へ先へと導いてくれて、最後まで弾き通すたびに、何度も別の人生や創造や哲学を旅する経験ができる。あるときには最後の5つくらいの変奏でキリストが復活するような感覚を味わったこともあります。どれだけ勉強しても尽きないし、いつも自分がいかに無知なのかを思い知らされる。決して届かない大きなものに向かって手をと一緒に、絵本のように聴けるから、深い世界が楽しく味わえる。そんなとき人は幸福を感じるものだ。一生懸命伸ばしている感じですが、そういう絶望感みたいなのも含めて胸がワクワクするのです!  あの大劇場を自分の音楽で支配できるかどうかはわかりませんが、僕の演奏を通して皆さんもバッハの宇宙に触れ、光をみつけるきっかけになれば嬉しいです」花房英里子小林啓倫取材・文:東端哲也文:香原斗志朴 令鈴91おと と おと と vol.16 少年の魔法の角笛 〜グスタフ・マーラーの音絵本〜人間の生そのものである深い歌を絵本のように楽しむ時間 マーラーは宇宙を音響的に包括したような交響曲で知られるが、人間の実存の奥の奥に迫るような歌曲もまた、あらゆる感情が包括されていて深い。特に、ドイツの民謡詩集から選ばれた詩に音楽をつけた「少年の魔法の角笛」は、自然の風景や動物、日々の生活や愛、絶対的な神、そして戦争や死まで、人間とそれを取り巻く世界が、曲ごとに満ち満ちている。 どの歌をどのパートに歌わせるか、マーラーは指示していないが、そこがうまく歌い分けられると、人間の「生」

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