eぶらあぼ 2022.11月号
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「コットスはギリシャ神話の怪物の名前です。コントラストのあるプログラムになりました」清澄な祈りと炸裂する技巧。奇才ぶりが発揮される。 「B→C」に欠かせないバッハ作品からは、無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調 BWV1012。 「僕がチェロを始めたのは、ヨーヨー・マのDVD『インスパイアド・バイ・バッハ』に感動したからです。彼はサラエボ五輪金メダルのトービル&ディーン組によるアイスダンスと共演し、第6番を弾いていました。『いいな。僕も弾きたい』と親にお願いしました」第6番で自身の原点を示す。 上野が委嘱した森円花の「不死鳥 ── 独奏チェロのための」は世界初演となる。 「森さんは桐朋学園大学の先輩で、人間味のある曲を書く人です。コロナ禍の中でも音楽は終わらないという意味で『不死鳥』を書いたそうです。新しい奏法があり、アートとのコラボレーションも考えています」11/8(火)19:00 東京文化会館(小)問 東京コンサーツ03-3200-9755 https://www.tokyo-concerts.co.jpInterview上野通明(チェロ)ジュネーヴ国際コンクール覇者、祈りと超絶技巧の無伴奏  2021年ジュネーヴ国際音楽コンクール チェロ部門で日本人初の第1位に輝くなど、数々の受賞歴を持つチェリスト上野通明が「B→C(バッハからコンテンポラリーへ)」シリーズに登場する。本公演時に27歳という若さだが、10代から国際的に注目され、秀演を重ねている。今回はすべて無伴奏。平和への祈りを込めて、独りで弾き続ける深みのあるプログラムとなっている。 「パンデミックや戦争の悪いニュースが続く中、悲しみに暮れる人々に捧げる曲を選びました。悲惨なことが起きると人は人智を超えたものに助けを求めます。神や宗教を題材にした曲を多く見つけました」 1曲目は英国の作曲家ジョン・タヴナーの「トリノス」。ビートルズとの交流でも知られたタヴナーはギリシャ正教徒で神秘主義者。 「チェリストのスティーヴン・イッサーリスのために1990年に書かれた曲。彼がロックダウン中に追悼の演奏動画をアップロードし、それを見て僕もぜひこの曲でコンサートを始めたいと思いました」 前衛に与せず、美しい旋律を持つ「トリノス」でまず、現代音楽の固定観念から聴き手を解き放つ。 対照的なのは、前衛の極みといえるクセナキスの「コットス」。上野がジュネーヴ国際で特殊奏法を印象付けた曲だ。える。難聴の苦しみを克服し、自ら「新しい道を歩む」と宣言したベートーヴェンが、さらに独自の新境地へと突き進んでいった時期のソナタである。室内楽作品は、バリトンの大沼徹を迎えて、歌曲集「遙かなる恋人に」を披露する。ベートーヴェンの創作中期から後期へと入る時代に書かれた作品だ。円熟味を増した調べを、二人のアンサンブルで存分に堪能したい。東京オペラシティ B→C(ビートゥーシー) 上野通明(チェロ)12/20(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール 10/21(金)発売問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 https://www.operacity.jp ブリテンの無伴奏チェロ組曲第3番 op.87はロストロポーヴィチの演奏に感銘を受けて作曲された。 「ロシア正教会の聖歌が出てきます。僕は教会音楽や心洗われる曲が好きです。チェロ1本の公演を楽しみにしています」 今年25年目の「B→C」。247回目は無伴奏チェロが伝説になる。取材・文:池上輝彦文:飯田有抄77近藤伸子 ベートーヴェンシリーズ Ⅴ “Tempest”「新しい道」へ中期の傑作に浸り、楽聖へ想いを馳せる 理知的なアプローチと洗練されたタッチで聴衆を惹き込むピアニスト近藤伸子。「Kondo Nobuko Plays Beethoven」は2019年からスタートしたシリーズで、毎回ベートーヴェンのピアノ・ソナタと室内楽作品とを組み合わせた曲目で構成している。 コロナ禍もその歩みを止めることなく続け、5回目となる今年は「『新しい道』へ」と題し、幕開けには軽快かつ技巧的なソナタ第11番を、そしてop.31の3つのソナタ(第16番、17番「テンペスト」、18番)をプログラムの中心に据

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