eぶらあぼ 2022.11月号
68/173

Interview児玉 桃(ピアノ)畢生の大作から周辺の音楽まで、メシアンの第一人者による一大プロジェクト取材・文:伊藤制子 日本列島の紅葉が深まり、コンサート・シーズンたけなわとなる晩秋。浜離宮朝日ホールで、フランスを中心に国際的に活躍するピアニストの児玉桃による「メシアン・プロジェクト」が始動する。3回シリーズで、メシアンとその周辺の音楽の魅力を味わえるとても粋な企画だ。 1日目の11月26日は、マルチな音楽家として八面六臂の活躍をみせる鈴木優人を迎え、ソロ、四手、二台ピアノ作品が披露される。 「指揮としての鈴木優人さんとは、メシアンの大作『峡谷から星たちへ…』などで、これまでご一緒してきました。ピアノでは初めての共演になります。ピアニストとしても鈴木さんはとてもレパートリーが広く、共演者にうまく呼吸を合わせてくださる方なのでリハーサルが楽しみですね。プログラムは、手拍子によるライヒの『クラッピング・ミュージック』、バッハ=クルターグのインティメイトなコラールのあとに、ラヴェルの華やかな『ラ・ヴァルス』が続きます。そしてメシアンの『アーメンの幻影』を最後に置きました。二台ピアノは同じ楽器同士とはいえ、立体的な響きを考えたり、バランスをとったりするのが意外と難しいですが、それがピアノのデュオの醍醐味で、面白いところでもありますね」 児玉は2008年、メシアンの大作「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」の演奏で非常に高い評価を受けたが、待望の再演が12月3日の2日目に組まれた。 「『まなざし』は技巧的にとても難しく、毎回練習し直さないと弾けないようなとてもハードな曲ですね。各曲はそれぞれ個性があり、第10曲〈よろこびの聖霊のまなざし〉、第15曲〈幼子イエスの接吻〉のように、リサイタルで弾けるような長めの曲もあれば、ごく短い曲もあります。また第18曲〈恐ろしき塗油のまなざし〉のように激しくて怖いくらいの曲も含まれており、全体がひとつの旅のような作品だと思います。メシアン芸術のエッセンスがすべて詰まっている傑作といえるのではないでしょうか」 3日目の12月10日は室内楽プログラムである。この日はちょうどメシアンの誕生日だ。 「今回ご一緒するヴァイオリンの竹澤恭子さん、クラリネットの吉田誠さん、そしてチェロの横坂源さんは、それぞれほんとうに素晴らしい音楽家の方々です。ジェネレーションやバックグラウンドは異なりますが、日本人という同じルーツをもつ音楽家ということもあり、東京で共演するのが楽しみです。この日は、平和を象徴するメシアン初期の前奏曲集の第1番『鳩』で始まり、ミヨーの明るく陽気な作風の組曲、そしてショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第2番に続き、メシアンの『世の終わりのための四重奏曲』というプログラムです。メシアンはひとつの音をリピートすることで長く永遠に続くかのような時空をつくりあげていて、『世のメシアン没後30周年 浜離宮朝日ホール開館30周年児玉桃メシアン・プロジェクト2022【Vol.1】児玉桃×鈴木優人 11/26(土)【Vol.2】児玉桃 ピアノ・リサイタル 12/3(土)【Vol.3】児玉桃とヴィルトゥオーゾたち 12/10(土)各日14:00 浜離宮朝日ホール問 朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/鈴木優人©Marco Borggreve終わりのための四重奏曲』の終曲は、天国に向かうような上昇形で終わるのが印象的です。メシアンの清明な音楽を、オープンな耳と心で聴いていただけたら嬉しいです」 児玉は1歳からヨーロッパに移り、パリに長らく住んでいるが、気品のある日本語で丁寧に取材に応じてくれたのが印象的だった。お正月には日本から食材を持ち込み、毎年お節料理を手作りしており、その模様が児玉のツイッターにも掲載されている。フランス文化の中で自身のピアニズムをはぐくみながらも、日本文化や美意識を大切にしてきた児玉。フランス音楽の伝統を受け継ぎつつ、東洋の美学にも魅せられたメシアンの世界が、ことのほか豊かに表現されることだろう。児玉 桃 ©Marco Borggreve竹澤恭子©松永 学横坂 源©Takashi Okamoto吉田 誠©Aurélien Tranchet65

元のページ  ../index.html#68

このブックを見る