eぶらあぼ 2022.11月号
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第529回日経ミューズサロン前橋汀子 演奏活動60周年記念無伴奏ヴァイオリン・リサイタル第一線で活躍し続けるヴァイオリニストが聴かせる円熟の世界 ヴァイオリニストの演奏活動60周年。しかも第一線を維持してとなると、途方もない年数だ。その偉大な節目を迎えた前橋汀子。昨年から今年にかけての記念演奏会や録音では、瑞々しくも凛とした音色で、集中力の高い“達人の至芸”というべき名演奏を各所で聴かせている。近年は「前橋汀子カルテット」、日本経済新聞「私の履歴書」連載など、ますます多岐にわたる活動に取り組んでいる。 そして記念の年を締めくくる12月、日経ホールで無伴奏リサイタルが開12/16(金)18:30 日経ホール問 日経公演事務局03-5227-4227https://stage.exhn.jpInterviewミシェル・ダルベルト(ピアノ)現代フランス最高峰のピアニストが贈る彩色豊かなプログラム 1955年パリ生まれのミシェル・ダルベルト。20世紀の巨匠、ヴラド・ペルルミュテールの薫陶をうけ、伝統を受け継ぐベテランピアニストが、各地でリサイタルを行う。 東京(浜離宮朝日ホール)、京都、豊田で演奏するのは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番とリストのロ短調ソナタを軸に、モーツァルトとフォーレをあわせたプログラム。 「ベートーヴェンの最後のソナタは、あまりに高い精神性を持つ作品。演奏しようとするたび、その音楽精神にあと一歩届かず、失敗したかのような気持ちになることがほとんどです。それでももう一度立ち向かいたくなるのが性。私もこのチャレンジを楽しんでいます。 リストのソナタは傑作として広く知られています。私は、彼こそベートーヴェンの偉大なソナタに匹敵するほどのソナタを書けた唯一の作曲家だと思っています。一見幻想曲のように聞こえますが、構造をよく見ると、ソナタ形式に忠実だということがわかります。これはこの作品の数ある不思議の一つです。毎回の演奏が挑戦で、最初の二つのソの音を鳴らした時にはいつも、“さあ、冒険に出かけよう”という気持ちになるのです。 そして、フォーレについては私の中で年々愛が深まってきているので、彼催される。パガニーニのカプリース第13、16、17番、そしてJ.S.バッハの無伴奏ソナタ第3番、パルティータ第3、2番という、驚くべき重厚なフルプログラム。ことにヴァイオリン音楽の頂点に立つバッハ3曲は注目で、柔軟なスタンスで臨みながらも訴求力の強い、重みのある練達の演奏が体験できそうだ。最後はもちろんパルティータ第2番で、終曲「シャコンヌ」は60年の経験が内包される名演になるはず。前橋のメッセージと芸術家としての在り方、しっかり体感したい。の作品の中からノクターンを取り上げることにしました」 一方、武蔵野で演奏するのは、ショパン、シューマン、ラヴェル、リストによるファンタジーあふれるプログラム。 「幻想曲という同じタイトルを持つ作品でも、それぞれに必要なサウンドはまったく異なっている点が興味深いと思います。プログラムの中で、それぞれの作曲家ごとに別のピアノを弾き分けられたらいいなと思うくらいです。そんな理想を実現させるのは本当に難しいことではありますが」 今回は、パンデミックによる公演中止を経ての久しぶりの日本公演となる。 「前回の来日は2020年2月、世界がこのウイルスの深刻さに気づき始めた頃でした。日本を離れ、本当に長い時間が経ったように感じます。昨年5月にフランスで演奏活動を再開できるようになった時、聴衆がコンサートに足を運び、生の演奏を聴くことでどれだけ安堵しているか、音楽家もひしひしと感じたものです」ミシェル・ダルベルト ピアノ・リサイタル11/8(火)19:00 浜離宮朝日ホール11/15(火)19:00 武蔵野市民文化会館(小)問 パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831 http://www.pacific-concert.co.jp他公演11/6(日) 豊田市コンサートホール(0565-35-8200)11/11(金) 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ(075-711-3231) 久しぶりに日本の聴衆を前に演奏するこの機会は、自身にとって「特別で忘れがたい思い出となるはず」と話す。その想いとともに、作品への深い理解を存分に披露してくれるだろう。取材・文:高坂はる香©Jean-Philippe Raibaud 文:林 昌英©篠山紀信59

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