だが、楽しい日々は長くは続かなかった。取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)5人は「病気をしたのかな?」と思ったものの、同期の打楽器パートが6人いることを喜んだ。 それぞれ別の中学校から進学してきたから、最初はすぐに打ち解けられなかった。 「みんなで練習曲やってみよっか。初見で」 咲月の提案で、簡単な練習曲の楽譜を6人でいきなり演奏した。とはいえ、楽器ではなく練習用のゴムのパッドを叩くだけだから、楽しんで演奏できた。リズムを合わせてバチを振るうちに、少しずつみんなの心が通じ合っていくのを感じた。 「恋バナでもしよっか。川内くんの初恋は?」 パッドを叩きながら凛が言った。 「え……っと、小学校のとき。でも、好きなだけで、告白とか何もできなかった……」 春輝が少し恥ずかしそうに言うと、ほかの5人は笑顔でヒューヒューと冷やかした。その会話が6人が打ち解けるきっかけになった。 この6人で引退するまで一緒に頑張っていくんだ……。咲月たちは当然のようにそう思っていた。 コロナ禍も3年目、ぶらあぼ編集部では多くの音楽家から吹奏楽部の苦難の状況を耳にしてきました。そこで吹奏楽と言えばこの方、吹奏楽作家のオザワ部長に登場いただき吹奏楽部を応援する企画を始めました。まだマスクが取れない日々ですが、音楽へひたむきな情熱を燃やす若者の姿は、見ている私たちも元気にしてくれます。 2022年9月10日、東京都吹奏楽コンクール・高等学校の部が開催された。「吹奏楽の甲子園」とも呼ばれる全日本吹奏楽コンクールに出場する東京都代表2校を選ぶ大会だ。 予選を突破してきた全12校が出場する中、最後に登場したのは東海大学菅生高等学校吹奏楽部だった。顧問の加島(かじま)貞夫先生の指揮で、自由曲であるフィリップ・スパーク作曲「宇宙の音楽」を奏でた。演奏するメンバーは55人。打楽器パートは6人中5人が3年生。パートリーダーの岩波楓(かえで)、奥村凛、河原由佳、鈴野花季(はるき)、そして、唯一の男子で部長も務める桶田咲月(おけださつき)。 いや、もうひとり。そのステージには“打楽器6人目の3年生"がいた。先生と部員だけが感じることができる大切な仲間が……。 コロナ禍が襲来した2020年。6月になってようやく学校や部活が始動した。東海大菅生の1年生として吹奏楽部に正式に入った咲月たちは、川内春輝(はるき)という同い年の少年に出会った。 春輝はニット帽をかぶり、体型は少し華奢だった。♪♪♪♪♪♪52Vol.4 東海大学菅生高等学校 吹奏楽部
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