eぶらあぼ 2022.11月号
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Andrew Manze/指揮 コロナ禍で海外オーケストラの来日がまだ少ない中、11月にドイツからやってくるのがアンドリュー・マンゼ率いるNDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団(NDRフィル)だ。同楽団は、1998年から2009年まで大植英次が首席指揮者を務めたことでも知られ、本拠地ハノーファーを中心に北ドイツ全域をカバーする機動性の高い楽団である。コロナ禍でも放送オーケストラとしての強みを活かして、ほぼ休まず活動を続けたという。 英国出身のマンゼは2014年から首席指揮者を務めている。筆者を含め、一定の年代の方はバロック・ヴァイオリン奏者としての彼を覚えているかもしれないが、2008年以降は指揮に専念。最近ではベルリン・ドイツ響、ミュンヘン・フィル、ロンドン・フィル等とも良好な客演関係を築き上げている。 彼は自分の音楽人生を、指揮の歴史に喩える。 「初めは、バッハがチェンバロから弾き振りしたように、私も古楽アンサンブルでヴァイオリンを弾きながら指揮をしていたのですが、合唱曲を取り上げるようになると弾き振りでは見にくいという声が挙がり、合唱のときは楽器を置いて指揮するようになりました――きっと18世紀も同じだったでしょう。そしてベートーヴェンや初期ロマン派の交響曲のような編成の大きい曲になるといよいよ弾き振りだと難しく、指揮に専念するようになったわけです」 演奏家としての経験は指揮者としての活動にどう役立っているのだろうか。 「ひとつはプレイヤーたちの気持ちがわかるということ。それは私をより良い指揮者にしてくれていると思います。もうひとつは、古楽の場合、楽譜に書かれている情報が少ないので、歴史資料や絵画など周辺の情報を探る――すなわち音符の向こう側を見る――ことを身に付けました。その手法が、今モダン・オーケストラを指揮する時にもとても役立っています」取材・文:後藤菜穂子 来日ツアーの曲目は、ベートーヴェンの交響曲第3、7番、ピアノ協奏曲第4、5番(独奏:ゲルハルト・オピッツ)、ブラームスのヴァイオリン協奏曲(独奏:中村太地)という、ドイツの楽団としてのど真ん中のレパートリー。NDRフィルとは、どういったアプローチのベートーヴェンを聴かせてくれるのだろうか。 「最近、私は自分のアプローチを『post-HIP』(HIPとは歴史的知識に基づいた演奏のこと)と位置づけています。NDRフィルとベートーヴェンを演奏する際には、私自身がピリオド楽器の演奏を通じて培ってきたアイディアも取り入れていますが、オーケストラに向かって私が『ここはこう弾いてください』とか『ノン・ヴィブラートで』などと指示することはありません。むしろ、曲を弾く上でどんなアーティキュレーションやヴィブラートがふさわしいだろうかということを問いかけ、奏者たちの表現を引き出すようにしています。歴史的な知識はもちろん重要ではありますが、なぜこの曲を弾くのか、ということの方がはるかに大事ですから」 さらには「日本ツアーを行うのも、私たちが愛するこの音楽を、これまでお会いしたことのない日本の聴衆と分かち合いたいからなのです」と真摯に語る。きっとどのホールでもこのコンビにしか語れない音楽が体験できると確信している。NDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団11/15(火)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール■ テンポプリモ03‒3524‒122111/23(水・祝)14:00 横浜みなとみらいホール■ 神奈川芸術協会045-453-5080https://tempoprimo.co.jp※大分、福岡、大阪、愛知、新潟など各地で公演予定。 ツアー、プログラムの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。Interview42バロック・ヴァイオリンの名手が指揮者として魅せるベートーヴェンアンドリュー・マンゼ

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