39取材・文:飯田有抄 横浜みなとみらいホールが1年10ヵ月にわたる改修工事を経て、いよいよ10月21日にリニューアルオープンする。新井鷗子館長に、新たに掲げられたコンセプトについて聞いた。 「『ときめく音楽を 海の見えるホールから』——このコンセプトは私たちのスローガンでもあります。ロビーから海が一望できる音楽ホールはそう多くはありません。ここから、音楽という人間が生み出すアートを通じて、皆様にときめきを届けたい。そんな思いで掲げました。新しいロゴマークは、みなとみらいホールを表すMMHのアルファベットからなり、MMは波、Hは橋の形をしています。ホールからの景観とその特徴を伝える、繊細なデザインに仕上げました」 長期休館を経て、まずはホール自体がどのような変化を遂げたのだろうか。 「耐震構造の強化はもちろんのこと、どんな方にもアクセスしやすいように、バリアフリーの工夫にも力を入れました。これまで5階までだったエレベーターは6階までつながり、車椅子のお客様も小ホールへの移動がスムーズにできます。『多機能トイレ』やジェンダーレスにお使いいただける『だれでもトイレ』の数を大幅に増やし、広い授乳室なども完備しました。また、ホール内は通路側の座席に小さな手すりを付けています。 ホール内のカーペットや客席シートはすべて張り替えました。これまでは青や紫の寒色系でしたが、赤やオレンジといった暖色系に様変わり。より劇場らしい祝祭感のある雰囲気となりました。ステージ床は新たに削り出しを行い、輝きを増しています」 新たな幕開けを祝うように、豪華出演陣によるリニューアル記念公演が続く。 「10月29日のこけら落としは、沼尻竜典さん指揮神奈川フィルハーモニー管弦楽団によるコンサートです。『海の見えるホールから山の音楽を』という沼尻さんのコンセプトをもとに、大規模編成の作品『アルプス交響曲』を取り上げます。翌日には、同じ神奈川フィルがポップス・オーケストラと化し、挾間美帆さんによるジャズ交響詩『ベイ・プロムナード』(横浜JAZZ協会創立30周年記念委嘱作品)を初演します。挾間さんの素晴らしいオーケストレーションに期待が高まります。また11月1日は、視覚に障がいのある方々と共に作るコンサート『ミュージック・イン・ザ・ダーク®』が、これまでにない豪華な編成で開かれます。独奏者のお一人に、このシリーズの創始者でもある和波孝さんをお迎えし、ヴィヴァルディの『四季』を演奏します」 ホールでは「プロデューサー in レジデンス」制度を設け、発信力のある優れた演奏家によるプロデュース事業が展開されている。プロデューサー2021-23の藤木大地(カウンターテナー)は、11月3日に井上道義指揮NHK交響楽団の公演に出演するほか、洗足学園音楽大学と連携を図った制作側の次世代育成企画にも力を入れている。 「藤木さんは『みなとみらいクインテット』を作り、新潟や岐阜、広島のホールと連携して、日本各地に当ホールのネットワークを広げるプロジェクトも促進してくれています。12月には、第2代ホールオルガニストに就任された近藤岳さんと藤木さんによるクリスマス・コンサートもあります。皆様に愛されているパイプオルガンの“ルーシー”もオーバーホールしてさらに磨きがかかりました。近藤さんの素敵な演奏にもご期待ください」 世界のトップアーティストが登場するホールだが、地元の人々に親しまれるホールであることも大切にしたいと考える新井館長。 「ネルソンス指揮ボストン交響楽団の公開リハーサルには、地元の中高生を無料でお招きします。若い世代から大人まで、横浜の方々に身近に感じてもらえるホールであってほしいです。10月22〜26日(24日を除く)の内覧会は、ピアノの弾き比べや公開リハ、無人オーケストラコンサートを行うなど、近隣の方々にも親しんでもらえる“参加型”で計画中です」 広く愛され、だれにでもアクセスできるホールを目指す横浜みなとみらいホール。さらなる躍進が楽しみだ。Profile東京藝術大学音楽学部楽理科および作曲科卒業。NHK教育番組の構成で国際エミー賞入選。これまでに「題名のない音楽会」、「読響プレミア」等のテレビ番組やコンサートの構成を数多く担当。 東京藝大COI拠点にて障がい者を支援する芸術の研究を行い、1本指で弾ける楽器「だれでもピアノ®」の開発に携わった。著書に『おはなしクラシック』(アルテスパブリッシング)、『音楽家ものがたり』(音楽之友社)等。東京藝術大学客員教授、洗足学園音楽大学客員教授、東京大学「先端アートデザイン分野」アドバイザー。横浜音祭りディレクター。生まれ変わったホールは、強い発信力を備え、誰もがアクセスできる場所
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