eぶらあぼ 2022.11月号
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37取材・文:池田卓夫 大植英次が12月12日、「Japan General Orchestra(ジェネオケ)」旗揚げ公演 Part2でベートーヴェンの「エグモント」序曲と交響曲第9番「合唱付き」を指揮する。ジェネオケは音楽プロデューサーの結月美妃が組織し、広島交響楽団第1コンサートマスターを今年3月まで務めた佐久間聡一に人選も含めた音楽面のリーダーシップを託した新設のプロオーケストラ。佐久間は大植が大阪フィルハーモニー交響楽団の音楽監督(現在は桂冠指揮者)だった時期の第2ヴァイオリン首席奏者でもあり、気心知れた間柄だ。大植とのインタビューも、佐久間の話題から始めた。―― 今回は長年のコラボレーターのために、ひと肌ぬぐ感じですね。 「佐久間さんは桐朋学園大学の後輩であり、僕が音楽監督時代の大阪フィルの第2ヴァイオリン首席奏者でした。広響に行った後も関係は続き、僕が組織した学生オーケストラでブラームスの『ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲』のソロを弾いたり、2013年に僕のプロデュースで始めた秋の音楽祭『威風堂々クラシック in Hiroshima』でも重要な役割を果たしてくれたりしています。色々な音楽に対し、自由自在な対応ができる閃きの持ち主で大きな可能性を秘めていますが、その裏、人に見えないところでは相当に勉強しているのでしょう。人当たりも良く、リーダーの資質を備えていればこそ、このオーケストラが成立したのだと思います」―― 大植さんが「第九」を頻繁に指揮するイメージがありません。 「もちろん師走の“第九文化”は知っていますが、僕自身はあまり、日本の12月に『第九』を振らないできました。ドイツではNeunte(ノインテ)。歓喜の主題がEU(欧州連合)賛歌にも採用されたセレモニアルな楽曲なので、滅多に演奏されません」―― 最終楽章に声楽を導入した点でも、特別な作品です。 「ベートーヴェン自身は最初、通常のスキーム(4楽章形式の器楽作品)で交響曲第9番を構想、合唱付き楽章は第10番の冒頭にするつもりだったそうです。そこに当時は珍しい女性の写譜屋さんが現れ、日々悪化するベートーヴェンの健康状態に接しながら『第10番の完成はおぼつかないだろう』と予測して、『合唱の楽章はここ(第9番のフィナーレ)に入れましょう』と提案したのです。素晴らしい判断でした。『歓喜の歌』の主題はベートーヴェンが12歳の時に書いたメロディーですが、周囲が『童謡にしか聴こえない』などと過小評価したため、ずうっと大切に取っておいたのでした。 耳疾がいよいよ悪化してから5年間、ほとんど何も書かなかったベートーヴェンが作曲を再開し、最後の『弦楽四重奏曲』や『ピアノ・ソナタ』『大フーガ』とともに『第九』を生み出したきっかけも、子どもでした。ウィーンの郊外を散策していた時、ベートーヴェンは小さな教会で男の子が2人、吹子(ふいご)を吹いてパイプオルガンに空気を送る姿と出くわして『子どもたちが音楽と真剣に向き合っているのに、私は何をやっているのだ』と目覚め、再び創作に向かったのです」―― 日本では歳末恒例のルーティンで演奏されがちな気もします。 「あまりに数多くこなした結果、どのオーケストラも似たようなテンポを採用しがちですね。僕はベートーヴェンの自筆譜に戻り、白紙の状態から組み立てます。ベートーヴェンはJ.S.バッハとヘンデルを尊敬していました。バッハの膨大な数のカンタータが示すように、西洋音楽の歌の基本は教会の音楽です。僕は合唱団や4人の独唱者にも祈りの感覚を浸透させるため、オーケストラとは別にリハーサルを行い、バランスを整えたいと思います。佐久間さんとは以心伝心なので、最初からかなり高い次元の音楽づくりができると確信しています。例えば第3楽章。ベートーヴェンの指示はソット・ヴォーチェ(音量を抑えて)ではなく、メッツァ・ヴォーチェ(半分の音量で)です。ちょっと気合の入った静けさというか、実にベートーヴェンらしい音楽ですが、なかなか正しく演奏されません。こうした細部にも目を配りながら“ありのまま”のフレッシュな『第九』をお届けするつもりです」Profile桐朋学園で齋藤秀雄に師事。タングルウッド音楽祭でレナード・バーンスタインと出会い、世界各地の公演に同行、助手を務めた。 エリー・フィル音楽監督、ミネソタ管音楽監督、ハノーファー北ドイツ放送フィル首席指揮者、バルセロナ響音楽監督、大阪フィル音楽監督を歴任。05年《トリスタンとイゾルテ》で日本人指揮者として初めてバイロイト音楽祭に出演。2009年ニーダーザクセン州功労勲章・一等功労十字章受章。現在、大阪フィルハーモニー交響楽団桂冠指揮者、ハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニー名誉指揮者。ハノーファー音楽大学終身正教授。ベートーヴェンらしい“ありのまま”のフレッシュな「第九」をお届けします

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