eぶらあぼ 2022.11月号
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第97回 「イタリアでレクチャー。あと能面&花魁ステップ」 9月22日から28日まで、イタリアのフェスティバル「テンポラ/コンテンポラ TEMPORA/CONTEMPORA #3」へ行ってきた。4月のリトアニアに続き、今年2度目の「日本のダンスについてのレクチャー」を依頼されたのだ。 日本のダンスへの興味を抱いてくれるのはうれしいけど、それはいま海外のダンスシーンで日本の若いダンサーを充分観ることができていない状況の裏返しだろう。かつて山海塾や勅使川原三郎ら第Ⅰ世代は80〜90年代に海外に拠点を作った。続く90〜2000年代はレニ・バッソ、H・アール・カオス、伊藤キム+輝く未来、そして黒田育世(BATIK)くらいまでが盛んに海外公演に出た。しかしそれ以降ほぼぷっつりと途切れたまま世代が代わってしまったのが現状である。現在は梅田宏明などごく一部の例外を除くと、ほぼない。それらにしても個人活動中心なので若い世代が経験を積む機会がないままだ。 そんなこともあってリトアニアも今回もオレのレクチャーと同時に、オレが推薦した若い日本のダンサーの中から一組が選ばれて招聘されている。今回の芸術監督フランコ・ウンガロ Franco Ungaroが選んだのは、能面を使った『my choice, my body,』で、前回のヨコハマダンスコレクションのコンペティションで受賞した水中めがね∞の二人(中川絢音と根本紳平)である。 場所は長靴に喩えられるイタリアのカカトにあたる古都レッチェ。このフェスは9月5日から10月8日まで週ごとにアーティストが代わってパフォーマンスする形式だ。限られた場所でもリハの時間を含めて多くの公演ができるスマートさがある。オレ等は他のアーティストの公演を観ることができないけれどもね。 オレのレクチャーは当初水中めがね∞の後の予定だったが、レッチェに着いたらパフォーマンスの前にProfileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com158変更になってた。やるなイタリア。だったら当初よりも作品解説部分を増やしてベストフィットさせてやるぜ! で、当日は会場に入りきらず立ち見の聴衆まで出るほどの皆さんが来てくれた。オレは日本ダンスの歴史の概略と、舞踏が海外のアーティストによって作品の一部として使いこなされる新しいアプローチ、新しい世代について触れた。 続く水中めがね∞の公演も満員だった。能面をつけた二人が背中を丸めて中腰で両手をぶらんとさせ、変わった摺り足で迫ってくる(花魁道中の歩き方からインスパイアされている)。通常のブラックボックスの劇場公演と違い、今回は白い壁だった。イタリアは少なく採り込んだ光を柔らかく回す建築なので、今回は複雑な光が能面にかつてないほど豊かな表情を生み出していたのだ。海外公演は「繊細に作った作品を、タフに上演しろ」が鉄則だが、中川絢音はこの公演を通して作品の新しい面を掴んだことと思う。 そして急遽、地元の芸術学校の生徒たちにオレのレクチャー&水中めがね∞のWS(ワークショップ)をやることに。80人くらいいる生徒たちは「ゲイシャ・パレードの足の動き」と聞いたら興味津々で、「面を着けたい人!」というとキャー!と大騒ぎ。盛況のうちに終わった。「公演×レクチャー×WS」で海外ツアー、誰かブッキングしてくれんか!?乗越たかお

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