eぶらあぼ 2022.10月号
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83浜離宮朝日ホール 開館30周年記念ヴィクトリア・ムローヴァ ヴァイオリン・リサイタルピリオドとモダン、2つの銘器で自在に時代を往来する ヴィクトリア・ムローヴァはシベリウス国際、チャイコフスキー国際という世界最高峰のコンクールを制覇したロシアン・ヴァイオリンの正統な継承者だ。1983年にソ連から亡命した後も飽くなき探求心によって確固たる存在感を放っている。 6年ぶりとなる浜離宮朝日ホールでのリサイタルは、彼女が開拓した広範なレパートリーと多彩なアプローチが生きたものになりそうだ。前半はガット弦を張ったガダニーニを用いてフォルテピアノと共演し、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの第4番と第7番の2曲を聴かせる。主に羊の腸を用いたガット弦は、現代の弦ほどの強靱さや派手さはないが、柔和で温もりのある渋い音がする。18世紀初頭にイタリアで発明されたフォルテピアノは、ベートーヴェンの時代には音域が広がり、アクションも急速に進化しており、弦によってボウイングが変わるヴァイオリンとと ストラヴィンスキーとシェーンベルクの両作品は、20世紀における古典回帰の精神を反映し、バロック音楽的な発想をもとにしている。ストラヴィンスキー作品は合奏協奏曲風でウィットに富む。シェーンベルク作品では東響の小林壱成、服部亜矢子、武生直子、伊藤文嗣か東京オペラシティシリーズ 第129回10/9(日)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 https://tokyosymphony.jpもに、時代の機微が蘇るはずだ。 後半はモダン弦を張ったストラディヴァリウス「ジュールズ・フォーク」(1723年製)に持ち替え、まずは武満徹のメシアン的でシュールレアリスティックな初期作品「妖精の距離」、さらにペルトのアルカイックな「フラトレス」とつなぎ、シューベルトの「ロンドD895」で閉じる。 ピアノも後半ではモダンに変わるが、ピアノのアラスデア・ビートソンは、ソロに室内楽にと活躍するだけでなく、プロデューサーとしての手腕も確かな実力派。ムローヴァとの古楽アプローチによるベートーヴェンは、すでに各地での演奏実績や録音があり、その信頼も厚い。11/20(日)15:00 浜離宮朝日ホール問 朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/他公演11/19(土) 豊田市コンサートホール(0565-35-8200)11/21(月) 武蔵野市民文化会館(小) 11/22(火) 神奈川県立音楽堂(パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831)(11/21,11/22)ジョナサン・ノット ©K.Miura/TSO左:坂本リサ 右:坂本 彩 ©Ayane Shindoらなる弦楽四重奏がオーケストラと共演する。原曲はヘンデルの合奏協奏曲 op.6-7だが、シェーンベルクは単なる編曲を超えた再創造を施している。あたかもパラレルワールドからやってきたデラックス仕様のバロック音楽を聴くかのような新鮮さを楽しめるはずだ。©Benjamin Ealovega文:飯尾洋一文:江藤光紀ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団古典の新しい愉しみ方を紹介する協奏曲プログラム いつも刺激的なプログラムを用意してくれる音楽監督ジョナサン・ノットと東京交響楽団の名コンビ。10月の東京オペラシティシリーズ第129回では、ストラヴィンスキーの「ダンス・コンチェルタンテ」、シェーンベルクの「弦楽四重奏と管弦楽のための協奏曲」、モーツァルトの「2台のピアノのための協奏曲 変ホ長調」の3曲が並べられる。キーワードとなるのはコンチェルト、そして古典VS擬古典。 モーツァルトの「2台のピアノのための協奏曲」では、坂本彩と坂本リサによる姉妹デュオ Piano duo Sakamotoがソリストを務める。第70回ARDミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ・デュオ部門で第3位および聴衆賞を受賞した新鋭で、ドイツと日本を拠点にする。いつも一緒の「仲良し姉妹」という二人だが、多くの体験を共有する姉妹ならではの濃密な表現を披露してくれることだろう。

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