eぶらあぼ 2022.10月号
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「音楽家がなぜクレイジーと言われるか、わかりますか?(笑) 毎日もうこの世にいない誰かの心の中に入ろうとし続けているからです。それが、作品にふさわしい音を鳴らすための唯一の方法なんですよ」 多彩な音色を味わい、強いメッセージを受け取る二夜となりそうだ。56Interviewアレクサンダー・コブリン(ピアノ)深い音楽性と情熱が描き出す“いま” 1980年モスクワに生まれ、ナウモフやゼリクマンら名教師のもと学んだ、アレクサンダー・コブリン。2005年ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝、現在はアメリカを拠点に活動する。日本では若い頃から親しまれてきたが、コロナの影響もあり、今回は久しぶりの来日。浜離宮朝日ホールで二夜にわたりリサイタルを行う。 第一夜はオール・ベートーヴェン。 「近年、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲録音を始め、ようやくベートーヴェンの真の重要性を理解できました。彼の音楽が表すのは、彼一人の意見ではなく、宇宙的な美です。その音楽から常に新しい惑星を発見できます」 有名なソナタには偉大な先達の録音も多い。その中でどう自分の音楽を創るのだろうか。 「私が何かを創造する必要はありません。心にある音楽を表現するだけで、それは新しいものです。一方で、過去の録音から触発されることはあります。たとえばシュナーベルのベートーヴェンは、制限の中の自由さがあり、詩的で、常に難しい顔をしていたベートーヴェンのあたたかい部分に気づかせてくれます。 音楽が娯楽の域をこえ、芸術的価値と影響力を持つことは、ベートーヴェンに」、尾高尚忠(尾高惇忠ピアノ版)「フルート協奏曲」にも大いに期待したい。加えて広島文化学園HBGホールではシルヴァン・カンブルランの指揮する広島交響楽団(11/19)とのプログラムも楽しみだ。日本製の愛器「三響フルート」の極上の響きに包まれるひとときを、ぜひ!なしに起き得ませんでした。文化と政治は関係ないという人もいますが、文化は社会の一部であり、その意味で政治とも深い関わりがあります」 そう語るコブリンが第二夜に選んだのは、ウクライナによせる曲目。彼の父方の祖父母はウクライナ生まれ、母はポーランドとロシアの血を引き、境遇はシンプルでない。ウクライナ侵攻の報を聞いたときは「人生が切り刻まれる気持ちだった」と話す。 「ロシア生まれの音楽家として意志を表明すべきというのが私の考えです。そこでロシアに支配される祖国を思い続けたショパン、ムソルグスキー『展覧会の絵』を選びました。大昔、ロシアは正教を取り入れ、それはキエフ(キーウ)から始まりました。千年前のウクライナなしにロシアは存在しません。これを弾くことでその事実をみなさんと思い出したいのです」 多様な作曲家たちそれぞれに求められる音も異なりそうだが、その音を鳴らす秘訣はあるのだろうか。アレクサンダー・コブリン ピアノリサイタル【第一夜】オール・ベートーヴェン・プログラム 11/9(水)【第二夜】ショパン&展覧会の絵 11/11(金)各日19:00 浜離宮朝日ホール問 オーパス・ワン03-5577-2072 https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/11/15(火)19:00 Hakuju Hall問 プロアルテムジケ03-3943-6677 https://www.proarte.jp11/17(木)18:30 日経ホール問 日経公演事務局03-5227-4227 https://stage.exhn.jp他公演11/12(土) 福岡/大牟田ひまわりホール ソレイユ(0944-56-2747)11/20(日) 小金井 宮地楽器ホール(042-380-8099)11/19(土) 広島文化学園HBGホール(広響との公演)(広響事務局082-532-3080)取材・文:高坂はる香©Alyona Vogelmann文:東端哲也©Johanna Auerワルター・アウアー フルート・リサイタルウィーン・フィル首席奏者が奏でる芳醇な響き 2003年から名門ウィーン・フィルおよびウィーン国立歌劇場管で首席フルート奏者として活躍し、ソリストとしても世界各国のオーケストラと共演。室内楽でも活躍めざましい名手が、11月に相性抜群のピアニスト沢木良子との共演で、東京や福岡にてリサイタルを開催。 来日の度にその時いちばん愛する(演奏したい)作品を集めて色彩豊かなプログラムを届けてくれるが、今回もバッハを筆頭にシャミナードやタファネルなどが書いたフルートのための美しい曲が盛りだくさん。もちろん楽聖の傑作「スプリング・ソナタ」(フルート版)をどのように奏でてくれるのかにも注目。そして一柳慧「忘れえぬ記憶の中

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