eぶらあぼ 2022.10月号
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172ザ・ホルン・デュオ/安土真弓&五十畑勉オールリスト・ピアノリサイタル/中川朋子シークレット・ラヴ・レター/リサ・バティアシュヴィリ松村禎三交響作品集/野平一郎&渡邉康雄&オーケストラ・ニッポニカ名古屋フィル首席奏者の安土真弓と都響奏者の五十畑勉が、ホルンのデュオでのみ可能な音世界を満喫させるアルバム。オリジナル曲と歌もの主体の構成だが、曲調が変化に富んでいて終始飽きさせない。オリジナル曲は、2本のやりとりの妙と合体した響きの豊潤さが相まったシュラーの二重奏曲を筆頭に、どれも聴き応え十分。ナチュラルな歌心で綴られたオペラの名曲はさらに愉しく、なかでも、ドリーブやビゼー作品の美しさ、ロッシーニのアリアを連ねたカリヴォダ作品の妙技と愉悦感が特筆される。ピアノの斎藤龍も絶妙な支え。新鮮な美感を味わえる好ディスクの登場だ。(柴田克彦)オーストリアやドイツで研鑽を積んだピアニストの中川朋子。ソリストとしてはもちろん、室内楽奏者としても活躍し、現在では後進の指導にもあたっている彼女が、2枚組によるリストのCDをリリース。昨年開催したリサイタルのライブ録音で、「巡礼の年 第1年」全曲と「ピアノ・ソナタ ロ短調」という大曲が並ぶ。ともに高度な技巧はもちろん、風景や心情を鮮烈に描写する表現力、楽曲の構造を音で見せていく構築力の高さが求められる難曲だ。中川は美しく粒のそろったタッチ、多彩な音色と幅広いデュナーミクを駆使した演奏によって、オーケストラのような奥行きを楽しませてくれる。(長井進之介)フランクの弾き始め1分間で心奪われる。「秘密」を大テーマとして、ピアノ付きの「友情」の2曲が、オーケストラ付きの「秘めた愛」の耽美な2曲を挟む構成の好アルバム。バティアシュヴィリは刹那的な情念に溺れることはないが、統制のとれた表現の幅が恐ろしく広く、懐が深い。常に全体像をイメージしながら細かい表情を彫琢して、大事な瞬間には最高の表現で心をつかむ。フランクは完熟の名演というほかなく、シマノフスキも完璧に手の内に入れている。当代随一の名人であることを存分に示す一枚。ネゼ=セガンは鮮烈な色彩を引き出し、ドビュッシーでは詩的なピアノも披露。  (林 昌英)いつ果てるとも知れず続く暗闇。目を凝らしてみると、闇の底で何かがうごめいている。その蠢動は少しずつ膨らみ、どんどん巨大化していって、最後には物凄いエネルギーを噴き上げる――粘着的な情念の爆発こそ、松村禎三が一貫して表現したドラマトゥルギーだ。強迫観念のように同じ音を叩き続けるピアノ協奏曲第1番。妖しい旋律線が互いを欺きあうように動き緊張感を高めていく「ゲッセマネの夜に」。幾重にも積みあがった音の地層の上で金管が激しく吠える交響曲第1番。野平一郎とオーケストラ・ニッポニカの演奏は、代表作ともいうべき三作から、松村の思考と体臭を鮮やかに浮かび上がらせた。 (江藤光紀)シュラー:無伴奏ホルンのための二重奏曲/ドリーブ(小林健太郎編):《ラクメ》より〈花の二重唱〉/ヴェルディ(小林編):《ドン・カルロ》より〈神よ、あなたは我々の胸に〉/ビゼー(小林編):《真珠採り》より〈神殿の奥深く〉/カリヴォダ:2本のホルンとピアノのためのディヴェルティメント 他安土真弓 五十畑勉(以上ホルン)斎藤龍(ピアノ)コジマ録音ALCD-3128 ¥3080(税込)リスト:巡礼の年 第1年「スイス」、ピアノ・ソナタ ロ短調、コンソレーション(慰め)第3番、愛の夢 第3番中川朋子(ピアノ)フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調/シマノフスキ:ヴァイオリン協奏曲第1番/ショーソン:詩曲/ドビュッシー(ハイフェッツ編):美しき夕暮れリサ・バティアシュヴィリ(ヴァイオリン)フィラデルフィア管弦楽団ヤニック・ネゼ=セガン(指揮/ピアノ)ギオルギ・ギガシヴィリ(ピアノ)ユニバーサルミュージックUCCG-45057 ¥3080(税込)松村禎三:ピアノ協奏曲第1番、ゲッセマネの夜に、交響曲第1番野平一郎(指揮)渡邉康雄(ピアノ)オーケストラ・ニッポニカ収録:2021年12月、電気文化会館 ザ・コンサートホール(ライブ)ナミ・レコードWWCC7971-2(2枚組) ¥3300(税込)妙音舎MYCL-00030 ¥3300(税込)CDCDCDCD

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