eぶらあぼ 2022.10月号
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Bのバガテル 高橋悠治 ピアノ・リサイタルベートーヴェン:6つのバガテル op.126/バエス:5つのバガテル/バルトーク:14のバガテル op.6/クープラン:バガテル高橋悠治(ピアノ)170火の鳥(全曲版) 他/原田慶太楼&N響《ダイアローグ》ヒンデミット:無伴奏ヴィオラ・ソナタ集/小峰航一原田慶太楼はその経歴からアメリカンなイメージがあるが、実はロシアものとの相性も抜群だ。本盤の演奏がその証左。N響定期のライブで、全曲版がいい。組曲にはない箇所が特に印象的。たとえば〈イワン王子に捕らえられた火の鳥〉の追いかけるスピード感や嘆願のチェロソロや神秘的な木管ソロ。N響独奏陣の巧さが際立つ。〈不死の魔王カスチェイの登場〉は奇怪かつ異様で、いかにもラスボスが来た感じだ。〈カスチェイの目覚め〉と〈カスチェイの死〉も印象的。もちろん組曲にある〈王女たちのホロヴォート〉(ウクライナ民謡)のオーボエソロ、〈カスチェイたち一味による踊り〉の不気味さと超高速。そして〈フィナーレ〉の高揚も感動的だ。(横原千史)リーダー格の清水真弓を筆頭に、ドイツなどで活躍するトロンボーン女子たちによる四重奏にユーフォニアムのスパイスを加え、存在感の大きなパーカッションとともに時代も国も様式も超えて「歌と踊り」の音楽を29トラックも集めた魅惑のアルバム。冒頭の作者不詳の16世紀スペイン歌曲集から度肝を抜かれて荘厳な響きに酔いしれ、最後の1曲まで遊び心に溢れて心を掴まれる。特にドビュッシーやラヴェルにシベリウス、ベートーヴェン、ファリャ、ドヴォルザークを堪能した後で、レスピーギ「シバの女王ベルキス」からの怒濤のような終盤の展開には大興奮を禁じ得ない。曲目解説も充実!(東端哲也)80代半ばのピアニストならリサイタルを弾き通すだけでも大変なはず、という大方の予想を裏切り、高橋悠治は脱力によって老練な新境地を切り開いている。その姿勢が、イニシャルBの短いバガテル(小品)を集めた本作にも表れた。晩年のベートーヴェンの可憐さや華やかさの中にばっくりと開いた虚無、フィリピンのバエスの民族音楽と西洋音楽のキメラへの現代的な介入、若きバルトークの伝統とモダンとエスニシティーの混然一体としたアマルガム。アンコールはC(クープラン)に進みバガテルの根源に迫った。瑞々しい演奏に導かれ、聴き手は時間と空間をダイナミックに旅していく。(江藤光紀)小峰航一が弾くとヴィオラがよく響く。ヒンデミットの無伴奏という超難曲集でもそれは変わらない。小峰は解説で「ヒンデミットがヴィオラで倍音を多く感じさせる奏法を開拓した」と記しているが、それを具現化できる奏者は多くない。技術の卓越はもちろん、冷静な分析と豊富な経験の成果として、隙のない演奏だが息は詰まらず、豊かな音楽が流れていく。どの楽章もすばらしく、op.25-1の疾風のごとき第4楽章も楽譜が見えるような「丁寧な荒さ」で楽曲の姿を明らかにする。知性の中に艶が浮かび上がる小峰の演奏は、そのまま作品の特長になる。この作品集を愛する人、学ぶ人は必聴。(林 昌英)原田慶太楼(指揮)NHK交響楽団ストラヴィンスキー:バレエ音楽「火の鳥」全曲(1910年版)/ショパン(ストラヴィンスキー編):夜想曲 変イ長調 op.32-2(管弦楽版)作者不詳(高嶋圭子編):「ウプサラの歌曲集」より〈リウ・リウ・チウ、守り人〉/ラヴェル(清水真弓/土井詩織編):3つのシャンソン/レスピーギ(清水編):組曲「シバの女王ベルキス」より〈第3曲「戦いの踊り」〉 他ミューズ・トロンボーン・カルテット【清水真弓 土井詩織 遠藤理奈(以上トロンボーン) 児島瑞穂(バス・トロンボーン/ユーフォニアム)】武田怜奈(パーカッション)オクタヴィア・レコードOVCC-00165 ¥3520(税込)ヒンデミット:無伴奏ヴィオラ・ソナタ、同op.31-4、同op.25-1、同op.11-5小峰航一(ヴィオラ)収録:2022年1月、東京芸術劇場 コンサートホール(ライブ)日本コロムビアCOCQ-85591 ¥3300(税込)収録:2022年3月、浜離宮朝日ホール(ライブ)マイスター・ミュージックMM-4509 ¥3300(税込)録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9047 ¥3030(税込)CDSACDCDCDSong & Dance/ミューズ・トロンボーン・カルテット

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