eぶらあぼ 2022.9月号
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第744回 東京定期演奏会〈秋季〉 10/21(金)19:00、10/22(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://japanphil.or.jp9/25(日)14:00 三鷹市芸術文化センター 風のホール問 三鷹市スポーツと文化財団0422-47-5122 https://mitaka-sportsandculture.or.jp65フィルにおける終盤のプロジェクトにその全曲演奏を掲げ、現在第6番まで到達した。 そして今年10月、第7番&第8番を聴かせる。ダイナミックな第7番と小ぶりで典雅な第8番は、相前後して書かれた両輪の如き作品。リズムが弾む快活な音楽で、緩徐楽章を持たない等の共通点もある。インキネンはこれまで、自然な推進力と活力を持った、明朗で温かみのあるベートーヴェンを奏でてきただけに、両曲はジャスト・フィットしそうだし、なかでも楽聖が傑作と自負した第8番(インキネンは「ジョーク」だと話す)の表現が実に楽しみだ。しかも彼が22年の東京定期演奏会に登場するのは本公演のみ。ゆえにむろん聴き逃せない。できる音楽家が集結している。笙の演奏家であり雅楽芸人としても活動するカニササレアヤコ、柴田と同様にピリオドとモダンのフルートを演奏する一方でハーディ・ガーディ奏者としても活動する野崎真弥、チェンバロ奏者でありながら歌も披露する山下実季柴田俊幸 ©Shiho Kozai奈。ハイブリッドな感性を持つ彼らが、18世紀フランスのオトテールやドラヴィーニュから、J.S.バッハ、モーツァルト、はたまた「エレクトリカルパレード」まで、縦横無尽に古楽の世界を案内する約70分。「はじめて」ならずとも必聴だ。ピエタリ・インキネン ©Mechthild Schneider野崎真弥山下実季奈カニササレアヤコ文:柴田克彦文:原 典子ピエタリ・インキネン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団ラスト・シーズンを彩る、リズムの饗宴 ピエタリ・インキネンが、2022/23シーズンをもって日本フィルの首席指揮者のポストを離れる。09年から首席客演指揮者、16年から首席指揮者として、一方の柱ラザレフや日本勢とはテイストの異なる好演を数多く繰り広げた彼の音楽をレギュラーで聴けるのは、ひとまずこれが最後。残る公演はぜひ耳に焼き付けておきたい。 インキネンの功績のひとつが、ワーグナー、ブラームス、ブルックナーといった独墺もので日本フィルの新たなポテンシャルを引き出したこと。フィンランド生まれの彼だが、ザールブリュッケンの楽団のシェフやドイツ各地の一流楽団および歌劇場への客演で実績を重ね、バイロイト音楽祭の《指環》の指揮者にも指名されるなど、独墺圏での活躍は際立っている。その持ち味が最大限に生きるレパートリーといえば、ベートーヴェンの交響曲をおいて他にない。そこで彼は、日本古楽実験工房プロデュース 《はじめての古楽器!》新世代の感性が導く、自由で刺激的な音楽体験 ぶらあぼの読者に「古楽がはじめて」という方は、あまりいないかもしれない。けれど筆者が「はじめて古楽のスピリットに触れた」と感じたのは、柴田俊幸に出会ってからだった。ベルギーを拠点に活動するフラウト・トラヴェルソ奏者であり、今回の《はじめての古楽器!》をプロデュースする古楽実験工房の仕掛人である柴田が一貫して提案するのが「古くて新しい古楽」。21世紀におけるHIP(Historically Informed Performance practice=歴史的情報に基づく演奏法)はロマン派にまで拡大するどころか、柴田が芸術監督を務めるたかまつ国際古楽祭ではフリージャズや雅楽までもが「古楽」としてプログラムされていた。「クラシックが再現芸術になる前の時代のように、その場で音楽を作ることができる音楽家が集まって即興的に生み出されるのが古楽」と柴田は語る。 《はじめての古楽器!》にも、それが

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