eぶらあぼ 2022.9月号
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■香 ヴァイオリン リサイタル52Interview外山啓介(ピアノ)作品の時代様式を自身の音色に反映して 2007年にデビューし、早くも演奏活動15年を迎えたピアニストの外山啓介。全国規模のリサイタル・ツアーを毎年行い、楽曲に誠実に向き合う姿勢から生まれる音楽は、緻密でありながら華麗さをあわせもち、多くの人々を魅了し続けている。昨年はベートーヴェンの4大ピアノ・ソナタによるリサイタル・ツアーと新譜のリリースで話題を呼んだが、今年はモーツァルトにベートーヴェン、ショパンと、時代を超えたピアノ・ソナタが並ぶリサイタルを開催する。 「ベートーヴェンの葬送ソナタ(第12番)とショパンの葬送ソナタ(第2番)という流れは以前からやりたいと思っていました。そしてベートーヴェンのこの曲はモーツァルトのトルコ行進曲付きソナタ(第11番)からの影響が指摘されていますが、改めて3曲を並べてみると本当に似ているところが多い。大学の授業で学生たちとそれぞれの曲の第1楽章における変奏の関連性を見ていったのですが、古きよきものをベースにして新しいものが生み出されていったということが非常によくわかる3曲なのです。今年はそれをぜひお伝えしたいと思い、選びました」 今回は3つのピアノ・ソナタに加えて、ショパンの「雨だれ」前奏曲とノクターンの第7番、8番も演奏される。 「プログラミングでカギになるのは“調ベルトのロ短調の「華麗なるロンド D895」、バルトーク無伴奏ソナタ、ラヴェルのソナタ第2番という、楽器の可能性を追求するような濃密なプログラムで、強い意気込みが感じられる。どの曲にも注目すべきポイントがあるが、特に後半バルトークとラヴェルでは20世紀に到達した表現の幅と高みを一望できよう。廣瀬の凛とした美音と深まりを見せる表現で、ヴァイオリン芸術の凄みを体感する一夜となる。9/9(金)19:00 古賀政男音楽博物館 けやきホール問 トリオ・ヴェントゥス trioventus03@gmail.com https://www.trioventus.com性”だと思っています。ショパンの『葬送』は変ロ短調で、この前にノクターンの第8番(変ニ長調)を置くのがとてもきれいな流れになるのです。さらに、第8番と第7番(嬰ハ短調)は同主短調の関係性で、この2曲のつながりと色彩感のコントラストはショパンならではの美しさがあります。さらにその前に『雨だれ』も置くことで、よりショパンの和声感の美しさを表現できると思いました。この組み合わせは個人的にかなり気に入っています」 ショパンやベートーヴェンは外山のレパートリーとして欠かせないものになっているが、モーツァルトは久しぶりに演奏するという。 「『トルコ行進曲付き』に限らず、モーツァルトのソナタ自体弾くのが久しぶりです。今回、時代の違う作品を並べるにあたり、意識しているのはそれぞれが書かれた時期に使われていた楽器の違いです。これは音色や表現に外山啓介 ピアノ・リサイタル モーツァルト〜ベートーヴェン〜ショパン9/24(土)14:00 サントリーホール問 チケットスペース03-3234-9999 https://www.ints.co.jp他公演8/21(日) 沼津市民文化センター(小)(イーストン055-931-8999)9/4(日) 大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)9/11(日) コーチャンフォー釧路文化ホール(小)(0154-24-5005)9/18(日) 札幌コンサートホール Kitara(オフィス・ワン011-612-8696)11/12(土) 名古屋/三井住友海上しらかわホール(中京テレビクリエイション052-588-4477)も影響してきます。またモーツァルトでは特にオペラのアリアをも念頭に置いています。“声”という時代を経ても変わらないもの、“歌う”からこその表現というものもあると思うのです」 常に作品の時代様式や作曲家の想いに寄り添うことを大切にしている外山。今回のプログラムはそんな彼の魅力が存分に伝わるものとなるだろう。取材・文:長井進之介文:林 昌英©Yuji Hori廣瀬心■モダンなセンスと名技が光る意欲的なプログラム 近年ドイツから東京に拠点を移したヴァイオリニスト廣瀬心香。桐朋学園大学を首席卒業、ドイツ国立ベルリン芸術大学学士課程、修士課程共に最高位で修了。同時期にベルリンで学んだ3人で2019年に結成した「トリオ・ヴェントゥス」(廣瀬、チェロ鈴木皓矢、ピアノ北端祥人)はリサイタルやアルバムが好評を博し、最近は鈴木らと「エウレカ・カルテット」も結成、いま充実の活動を展開している俊才だ。 その廣瀬が9月、ピアノの坂本彩とともに待望のリサイタルを開催する。しかもフォーレのソナタ第1番、シュー

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