eぶらあぼ 2022.9月号
52/157

4910/11(火)18:30 東京文化会館(小)問 プロアルテムジケ03-3943-6677 https://www.proarte.jpInterview中木健二(チェロ)キーワードは“カンタービレ”、楽聖とフランスの「隠れた名曲」を対比取材・文:伊熊よし子 2005年ルトスワフスキ国際チェロ・コンクールの覇者で、10年から14年までフランス国立ボルドー・アキテーヌ管弦楽団の首席奏者を務め、現在はソロ、室内楽など多彩な活動を展開しているチェリストの中木健二。恩師であり親しい音楽仲間でもあるフランスのピアノの名手エリック・ル・サージュと、Hakuju Hallでデュオ・リサイタルを行う。 「フランス作品というとラヴェルやドビュッシーが有名ですが、印象派の陰に隠れてしまい、忘れ去られた作品というのが数多く存在するのです。今回取り上げるヴィエルヌとルクーの『チェロとピアノのためのソナタ』もそうした作品のひとつ。ヴィエルヌはエリックが『いい曲があるよ』と薦めてくれたんです」 ルイ・ヴィエルヌ(1870~1937)はセザール・フランク(2022年は生誕200年)の弟子で、盲目のオルガニストとして知られ、パリ・ノートルダム寺院の首席オルガニストを務めた。 「ヴィエルヌのソナタは時代的にワーグナーの影響を受けていて、とりわけ第2楽章が美しい。モティーフが独特で、転調が自在。曲の構成としては最後に第1楽章の主題に戻るのですが、その面がフランクを意識させます。けっして華美ではなく朴訥なピアノとの音の対話は、Hakuju Hallの響きにとも言われてきたピアニスト。実は、熊本は実際にグールドとの交流があった。15歳のクリスマス・シーズンをトロントで過ごした時、奇跡的にグールド本人と出会い、「自分の才能は自分で作るもの。自分を信じて演奏して」というメッセージを、グールドのマネージャーを通じてもらったそうだ。それが人生の大きな励ましにもなったという。そんなグールドの思い出も含んだ幻想的な音楽美の世界にひたろう。合うと思います」 ギヨーム・ルクー(1870~94)はフランク最後の弟子として知られるが、24歳で夭逝した。 「ルクーもワーグナーに夢中でした。冒頭のモティーフは《トリスタンとイゾルデ》を思い起こさせます。そうした2曲の間にベートーヴェンのソナタ第3番を挟み込む形にしましたが、私はいまベートーヴェンのフィルターを通して他の作曲家を見るというプログラム構成をしていて、今回は第3番を加えて全体のキーワードが“カンタービレ”になるように考えました。ベートーヴェンのソナタ第3番は、長く複雑で新しいことに挑戦したいという気概を感じさせます。3曲とも冒頭がチェロの独奏で奏でられるのは、ヴィエルヌとルクーが二人ともベートーヴェンの作品から影響を受けていたからに違いありません。やはり、これ以外は考えられない組み合わせです(笑)」 中木はフランスで10年半暮らし、ボルドーでは特にワインを愛した。それゆえ、リサイタルのプログラムは味わいよく深々と、心身を癒し、心に響く構中木健二(チェロ) & エリック・ル・サージュ(ピアノ)チェロとピアノが響き合う 芳醇なオールデュオプログラム10/15(土)15:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 https://hakujuhall.jp成に留意している。ル・サージュも自然体でおだやかなピアニズムの持ち主で、上質な音楽を愛し、美食を好むタイプ。ふたりの音の会話はフランスの芳醇で熟成したワインを連想させる。中木健二が「隠れた名曲」を世に発信したいと語るヴィエルヌとルクー。ぜひナマで真意を味わいたい。文:片桐卓也©塩澤秀樹熊本マリ(ピアノ)の夜会 華麗なる幻想美 〜グレン・グールドを思い出しながら…スペイン音楽やバッハの名曲で彩るスペシャルな夜 2021年秋リリースの『スパークリング・ナイト・イン・スペイン』が高い評価を受け、豊かなレパートリーと高い音楽性で聴き手を魅了するピアニスト・熊本マリが、10月11日(東京文化会館小ホール)に「熊本マリの夜会 華麗なる幻想美 ~グレン・グールドを思い出しながら…」を開く。R.シュトラウスの「ピアノ・ソナタ」やロドリーゴ、モンポウ、ガーシュウィンなど多彩なプログラムに、J.S.バッハの作品も含まれる。 コンサートのサブタイトルにもあるグレン・グールドはバッハ演奏の最高峰

元のページ  ../index.html#52

このブックを見る