eぶらあぼ 2022.9月号
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29取材・文:岸 純信(オペラ研究家) 可憐な風情のコロラトゥーラ・ソプラノとして、リセット・オロペサは頭角を現した。でも、今の彼女は「より劇的な境地」に猛進中。ニューヨークMETのマスネ《マノン》では目くばせに「女の業」を忍ばせ、今年2月のミラノ・スカラ座でのジュリエッタ(ベッリーニ《カプレーティとモンテッキ》)も、「崇高な音楽性と著しいエネルギー」が大評判を得た。 そのオロペサが9月に初来日。イタリアの名バリトン、ルカ・サルシと2回のコンサートを開催するが、プログラミングが「ベルカント&ヴェルディ」を網羅する勢いなので、意気込みを訊ねるべく、メール・インタビューを行った。 「米国ニューオーリンズの生まれです。ごく幼いころから歌っていました。母もソプラノで、現役時代は私より高い音域まで歌えていたんです」 なるほど。超高音はお母さん譲り。でも、いまの彼女はよりドラマティックな役柄に突き進む。たとえばヴェルディ中期の名作群。 「はい。今回も《リゴレット》第1幕の二重唱や、《椿姫》の大アリアと第2幕のジェルモンとのデュオを歌います。ご一緒するルカ・サルシさんは本当に素晴らしいアーティスト。彼の情熱的な歌いぶりと楽譜を尊重する姿勢に敬意を抱いています」 では、オロペサ自身の解釈を伺おう。まずは《リゴレット》のジルダ。 「マントヴァ公爵に出会うまで、彼女は自分で物事を決められない娘でした。長い間離れ離れの事情を父親のリゴレットに訊ねても、答えてくれません。そんな中でジルダは、公爵の存在を通じて、『自分はどういう人間で、本当は何を求めているのか?』と考えるようになりました。彼女にとって公爵の嘘は大した問題ではなく、父親が公爵を殺す計画を立てると、それを阻むべく命を投げ出します。それがジルダの選択。自分で選んだ『道』なの! 娘をずっとコントロールしたい父親から逃れるには、『愛のための死』を選ぶしかなかったのかもしれません」 たしかに! 続いては《椿姫》。 「第2幕の二重唱では、『何もないところから、ジェルモンとヴィオレッタの間にシンパシーが生まれる』という状況が大切ですね。ジェルモンははじめ、ヴィオレッタのことを敵 ―息子の誘惑者― と捉えますが、最後には、彼女がどれほどアルフレードを愛してくれているかを悟ります。ヴィオレッタの音楽には『抒情性と劇的な瞬間』が混ざっていて、私も自分の声を『押して歌う』ことはしませんが、悲しみの極致に至り、アルフレードから去るという自己犠牲のシーンにどのような声の色合いが相応しいか、それを考えながら歌っています」 ここで話題は、ヴェルディ以前のベルカント・オペラに移る。 「概して、ベッリーニの方がドニゼッティより、旋律美を生み出す力を持っています。でも、《ランメルモールのルチア》の〈狂乱の場〉で、ドニゼッティは『心の突然の変化』を表す技を発揮します。錯乱したルチアの口から、連続した音の流れのもと、雰囲気に富む、でもぞっとするような瞬間が次々湧いてでますね。一方、ベッリーニの《清教徒》は、同じ〈狂乱の場〉でも『ひたすら哀しみに沈む』もの。後半部には半音階が際立ちますが、歌うにはそれは難しいパッセージ。歌手には『罠』みたいなところね(笑)」 このほか、ロッシーニ《セビリアの理髪師》のコミカルなデュオや、フランス語のソロ(ヴェルディ《シチリア島の夕べの祈り》の〈ありがとう、愛する友よ〉)も歌うとのこと。筆者も、オロペサの卓抜したフランス語の歌いぶり ― 2018年パリでのマイアベーア《ユグノー教徒》の王妃マルグリート ― を体感した。 「有難うございます! 喜劇でもサルシさんとのやりとりを楽しみたいです。また、『フランスのベルカント・オペラ』のアルバムの録音を構想中でして、その一環としても《シチリア》をオリジナルのフランス語で歌います。曲の本来の魅力を感じ取ってくだされば・・・。初めての日本で、ご来場の皆さまに、音楽の楽しさと喜びをお伝えできれば。心からそう願っています!」Profileルイジアナ州ニューオーリンズ生まれ。フルートを学んだのち声楽に転向し、メトロポリタン・オペラによるナショナル・カウンシル・オーディションの優勝を機に同歌劇場の若手芸術家育成プログラムに参加、弱冠22歳にして《フィガロの結婚》スザンナでデビューを飾る。以後はメトロポリタン・オペラをはじめ、ミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場、バイエルン国立歌劇場、パリ・オペラ座など世界の主要な歌劇場に次々と主演を重ねる。注目の歌姫が初来日!名バリトンと得意のイタリア・オペラで魅せる2日間

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