eぶらあぼ 2022.9月号
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Information小山実稚恵 サントリーホール・シリーズ Concerto<以心伝心>第1回10/29(土)16:00 サントリーホール出演/小山実稚恵(ピアノ)、大野和士(指揮)、東京都交響楽団曲目/メンデルスゾーン:序曲「美しいメルジーネの物語」        ピアノ協奏曲第1番 ト短調 op.25ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 op.30■ サントリーホールチケットセンター0570-55-0017 https://suntory.jp/HALL/27取材・文:奥田佳道頃から毎晩寝る前に聴いていました。いろいろな景色、場面が浮かんでくるコンチェルトです。ロシアン・ロマンはもちろん、ニューヨークの摩天楼からエキゾチックな夜の景色を見下ろすかのような感じもあります。回想、ノスタルジックな場面もいいですね」大野「音楽も精神も高揚する第3楽章で、ピアノがティンパニに導かれて静かに、感極まったかのように歌う場面があります。アメリカ旅行を意識したピアニストのラフマニノフが、これまでの人生良かったよ、と言っているかのようです。実稚恵さんは、あの聖歌風のフレーズで、ピアノへの愛を告白することでしょう」 ロマン派の情趣あふれる佳品にも関わらず、演奏機会がそう多くないメンデルスゾーンのピアノ協奏曲第1番を提案したのは…。大野「私です。が、実稚恵さんも考えていたようです。まさに以心伝心(笑)。メンデルスゾーンのコンチェルトはフルネ先生(フランスの名匠ジャン・フルネ、1913~2008、都響の定期招聘指揮者、名誉指揮者を務めた)のレパートリーでもありました」小山・大野「ラフマニノフの3番がまず決まっていたわけですね。そうなると前半は古典的な世界ということになると思いますが、ラフマニノフの前には、ベートーヴェンではなく、プレ・ロマンとしてのメンデルスゾーンがいいでしょう。ラフマニノフに通じるドラマもエレガントさもありますし」小山「ベートーヴェンは来年(第2回)、3番と5番を弾きます(笑)」大野「ヴィヴィッドな色彩も今度のコンサートのテーマなのです。それで海の精メルジーネを描いた序曲を演奏します。木管楽器のソノリティが存分に楽しめますし、トッカータ的な躍動感も以心伝心の開幕にふさわしい」 藝大の同級生が奏でるシリーズ第1回。開演が待ち遠しい。以心伝心…この4文字に想いを込めて サントリーホールに響く新シリーズのタイトルは「Concerto<以心伝心>」。小山実稚恵による協奏曲シリーズ全4回の幕が上がる。まずは10月29日の夕方。「以心伝心」の旅は来年10月28日、2024年秋、2025年秋へと続く。デビュー40周年(2025年)を寿ぐ気宇壮大な企画だ。彼女の「ホーム」のひとつサントリーホール開館40周年(2026年)も映し出すかのよう。小山「以心伝心。この4文字に想いを込めました。ご一緒する4人の指揮者との以心伝心、そしてオーケストラ、お客様、ホールとの以心伝心です。今コンサート数は年間60回ほどですが、5~6割がコンチェルトです。とくに留学もしなかった私は、コンチェルトを通じて音楽を学んだのです。指揮者、オーケストラから得たものは、それこそ数えきれません。そして私がもっとも信頼申し上げる指揮者、藝大在学中から輝いていた方が、ここにいます(笑)。大野和士さんとはデビュー25周年、30周年もご一緒しました」大野「藝大在学中から憧れの存在だったのは、実稚恵さんの方ですよ。彼女のピアノは実はもうひとつのオーケストラなのです。構築性がありますし、オーケストラの流動性や色彩も息づいているのです。感情がうねっている、星がきらめいているかのようです」小山「大野さんとは藝大の大学院を修了する頃、ラフマニノフの2番で初めて共演しました(新宿文化センターでの1984年3月東京都交響楽団ファミリーコンサートNo.170、大野和士のデビューコンサート)。知的で聡明なマエストロですが、音楽が怖いくらいに憑依する瞬間があります。とにかく音楽の人です」大野「ピアノを弾いている彼女の表情がいいでしょう。昔から変わりません。単にうれしいとか、悲しいということではないです。心の底から、この音楽が大好きという表情に満ちています。そして音楽の頂点における彼女の姿勢! 身体が上に向かって開いているでしょう。作曲家の内なる声が彼女の中からあふれた瞬間ですよ」 今秋10月29日のプログラムは、メンデルスゾーンの序曲「美しいメルジーネの物語」とピアノ協奏曲第1番ト短調、そしてラフマニノフのピアノ協奏曲第3番ニ短調。ハーモニーの移ろいをも意識した美しい選曲だ。小山「ラフマニノフの3番はもう好きすぎて、高校の

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