eぶらあぼ 2022.9月号
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25── すでに「すみだ音楽大使」の等身大パネルがあちこちに立ち、両国国技館を抱える墨田区にふさわしく、元琴欧州さんとのツーショットも撮りました。 「デカい指揮者が来た!と宣伝するつもりでしたが、相手は2メートル5センチ、さすがに僕の方が小さかった(笑)」── パネルともども、地元に溶け込もうとの思いは十分に伝わります。 「兵庫県立芸術文化センターの芸術監督を開館以来務めてきて、公共ホールと街の人たちの関係について色々と考え、実践してきました。街がコンサートホールをつくり、運営する場合はクラシック音楽が中心で、ポップスとか落語会はあまりやらないでしょ? パイプオルガンまでしつらえてあればもう、ちょっとカッコつけたフレンチレストランみたいなもので、気軽に行ける食堂にはなりません。運営する自治体、街の人たち、実際に舞台を使う側が一体になって、素晴らしい施設や優れた音響を生かし、何を墨田区民に届けるかを、もっと真剣に考えるべきです。新日本フィルの音楽監督に就き、すみだ音楽大使をやるなか、地域と一体で高水準のオーケストラをつくり、他にない“家”を目指します」── すでに、かなり地元密着の動きをみせていますね。 「僕は京都・太秦の商店街で生まれ育ちました。墨田区に来て、居場所として心地いいというか、下町風情の壁の低さとともに、ものすごく地元愛を感じます。すでに町内会単位でリハーサルにお招きしたり、区内の学校へ僕が吹奏楽の指導に出かけたりして、距離を縮めつつあります。どういう文化が受け継がれてきたか、どういう企業が存在するかにも目を向けながらホール、オーケストラに足を運んで下さるための方策を考えます。僕が区内を訪ね歩くYouTubeチャンネル『すみだ佐渡さんぽ』も開設されました」── 新日本フィルは、創立者で今は桂冠名誉指揮者の小澤征爾さんの時代、ドイツ音楽一辺倒取材・文:池田卓夫ではない斬新なレパートリー、ポップスとのコラボレーション、若手指揮者の抜擢などに特色がありました。近年はより幅広いタイプの指揮者が現れ、レパートリーも多岐にわたりましたが、佐渡さんは音楽監督として今後、どのような方向性を目指していきますか。 「今こそ、さまざまな意味で『新日本フィル愛』を高めていく時だと思います。先日の50周年記念ツアーは移動日だけがオフの厳しい日程でしたが、反田恭平人気もあって13公演すべてが完売しました。演奏はヨーロッパのオーケストラに匹敵する水準で、どこもお客様の反応は熱く、コロナ禍の厳しい日々を耐えてきた楽員も大きな満足感を得られたのではないかと思います。新日本フィルが名実ともに日本を代表するオーケストラとなる上でも、まずは『墨田区の中で佐渡がまいている種を聴いてやろうぜ』という動きを作っていきたい」── 音楽監督として、レパートリーの軸をどこに置きますか? 「ヨーロッパの拠点がウィーン(トーンキュンストラー管音楽監督)ということもあり、ハイドンからベートーヴェン、ブルックナー、マーラー、R.シュトラウスのドイツ゠オーストリア音楽(ウィーン・ライン)を基本に、ロシア、フランスものを加えます。若いメンバーも多く、柔軟性に富むオーケストラの魅力を前面に出すつもりです」 10月末には、すみだトリフォニーホール開館25周年、新日本フィル創立50周年クロスオーバーの「25th アニバーサリーウィーク」として、26日にvol.1「佐渡裕×シエナ(ウインド・オーケストラ)×新日本フィル」、29&30日にvol.2「佐渡裕×さだまさし×新日本フィル×すみだの第九」を墨田区文化振興財団が主催する。佐渡らしいボーダーレスの魅力も、すでにたっぷりと用意されている。Profile京都市立芸術大学卒業。故レナード・バーンスタイン、小澤征爾らに師事。1989年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。これまでパリ管弦楽団、ロンドン交響楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団等欧州の一流オーケストラに多数客演を重ねている。現在オーストリアのトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督、兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウインド・オーケストラの首席指揮者、新日本フィルハーモニー交響楽団ミュージック・アドヴァイザーを務め、23年4月には新日本フィル音楽監督に就任予定。オフィシャルファンサイト http://yutaka-sado.meetsfan.jp地元・墨田区の人々に愛され、「聴いてみたい」オーケストラを目指して 2022年に創立50周年を迎えた新日本フィルハーモニー交響楽団は同年4月、指揮者の佐渡裕をミュージック・アドヴァイザーに迎え、50周年記念ツアーを全国13ヵ所で成功させた。フランチャイズ(本拠)のすみだトリフォニーホールの母体、東京都墨田区は佐渡を「すみだ音楽大使」に任命、2023年4月の音楽監督就任を見据え、地域と一体になった新たな歩みを共にしていく。

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