eぶらあぼ 2022.9月号
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第18回ショパン国際ピアノ・コンクール・ライヴ/小林愛実CDCDCDCD130シンガポール生まれの気鋭が、2023年から首席指揮者を務める日本フィルを指揮したデビュー盤。グスタフ・マーラー国際指揮者コンクールの覇者による注目のマーラー演奏でもある。まず挙げられるのはテンポ感の良さ。確かな運びの中で、時に大胆な振幅が耳を惹きつける。第1楽章は特にそう。第2楽章は極めて迫真的で、第3楽章は自然な躍動感が光る。第4楽章は静謐な中にもほのかに官能的で、第5楽章は多様な動きが明解に綾なしながらダイナミックに高揚する。かように全体の構築も見事だし、ホルンはじめ各楽器のソロも秀逸。今後のコンビの成果に期待が高まる好演だ。(柴田克彦)元ベルリン・フィルの名コンサートマスター安永徹と市野あゆみによる2001年のブラームス公演が、NHK収録音源でCD化された。なんという呼吸の深さ。一音ずつ味わい尽くすようなテンポだが弛緩とは無縁。温かくも濃密な歌は途切れることがなく、すべてが深遠に響く。特筆すべきはピアノで、広大な流れ、重要な動きの克明かつ深い歌い込み、和音ごとの色彩変化…どこを聴いても唸らされるばかり。“ドイツのブラームス”の何たるかを知る思いで、泰然たる第1番(30分)、第2番(24分)には畏怖の念すら覚える。この演奏が日常にあった21世紀初頭から20年余、私たちが得たもの、失ったものとは。(林 昌英)ショパン・コンクールの主催者であるフレデリク・ショパン研究所が、入賞者に限らず優れたコンテスタントの演奏をリリースする「Blue Series」より、2021年第4位、小林愛実のコンクール・ライブ音源が登場。全ステージから、小品2曲を除くほとんどの演奏を収録。なかでも、深く沈んだショパンの心に迫るように始まる「幻想ポロネーズ」、感情を放出するようなバラード第2番や、人間の気持ちの揺らぎを生き生きと再現する「24の前奏曲」は、何度も聴き返したくなる。小林にさらなる国際的キャリアをもたらした大舞台の、研ぎ澄まされた空気が収められている。(高坂はる香)トロンボーンのソロ・アルバムはこの楽器の特別なファンでない限りはなかなか手を出さないと思われるが、郡恭一郎の新譜『エタンセル』はプレイヤーやファンにはもちろんのこと、特にそうではない方にもソロ楽器としてのトロンボーンのポテンシャルと魅力がたっぷりと伝わる逸品となっていて目から鱗。郡の丸みと滋味を帯びた素晴らしいサウンドと、スライド楽器とは思えぬほどの滑らかな超絶技巧による音の粒立ち。レガートな歌の魅力も十分に堪能できるが、とりあえずはスパークの協奏曲の第2楽章とアーバンの「変奏曲」でそれらをしかと体感していただきたい。ピアノは神永睦子。(藤原 聡)マーラー:交響曲第5番/カーチュン・ウォン&日本フィルマーラー:交響曲第5番カーチュン・ウォン(指揮)日本フィルハーモニー交響楽団信末碩才(ホルン)オッタビアーノ・クリストーフォリ(トランペット)ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ全3曲 他/安永徹&市野あゆみエタンセル/郡恭一郎&神永睦子ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番〜第3番/ドヴォルザーク:「4つのロマンティックな小品 op.75」より/C.シューマン:「3つのロマンス op.22」より/クライスラー:愛の哀しみ安永徹(ヴァイオリン)市野あゆみ(ピアノ)ショパン:ノクターン第14番、練習曲 op.25-11「木枯らし」、スケルツォ第4番、4つのマズルカ op.30、24の前奏曲、幻想ポロネーズ、バラード第2番、アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ、ピアノ協奏曲第1番小林愛実(ピアノ)アンドレイ・ボレイコ(指揮)ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団収録:2021年10月、ワルシャワ(ライブ)Narodowy Instytut Fryderyka Chopina/東京エムプラスONIFCCD 647-648(2枚組) ¥4400(税込)スパーク:トロンボーン協奏曲/ストラヴィンスキー(ピエナール編):プルチネッラ組曲/アーバン:「ヴェニスの謝肉祭」による変奏曲郡恭一郎(トロンボーン)神永睦子(ピアノ)収録:2021年12月、サントリーホール(ライブ)日本コロムビア COCQ-85588 ¥3300(税込)収録:2001年7月、紀尾井ホール(ライブ)ナミ・レコードWWCC-7969-70(2枚組) ¥3300(税込)妙音舎MYCL-00014 ¥3300(税込)

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