eぶらあぼ 2022.08月号
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第249回 土曜マチネーシリーズ 8/27(土)第249回 日曜マチネーシリーズ 8/28(日)各日14:00 東京芸術劇場 コンサートホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 https://yomikyo.or.jp8/19(金)19:00 トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 https://www.toppanhall.comユライ・ヴァルチュハいるが、読響とは今回が初顔合わせ。オーケストラとオペラとの二つの活動を通して培われた、力強い運びのなかに、声部を整え、フレーズに細やかな表情を与えていくスタイルだ。 メンデルスゾーンの交響曲第3番 の前に組み合わせ、先達ハイドンから始めるのはごく明解としても、権代敦彦の「この口づけを全世界に」(2011)と矢代秋雄のピアノ・ソナタ(1961)を並べるのはヘルの独壇場だろう。 権代曲は「私たちの時代のダンス」を主題とした小品だが、原題の“Diesen Kuß der ganzen Welt”は「第九」の頌歌と繋がる。矢代がピアノ・ソナタの理想型をベートーヴェンのop.109にみたことは、自作が「精神的な影響を多く受けた」というかたちで述べられているが、両ソナタとも終楽章は変奏曲。現代の名手がこれらの文脈をどう明かすのかも興味をそそる。河村尚子 ©Marco Borggreve「スコットランド」は、この作曲家らしい細やかな動きがエモーショナルな波を起こしていく作品。気鋭の指揮者が、シャープなリズムで音楽を躍動させ、大きなうねりを作っていく予感に胸が高まるばかりだ。文:鈴木淳史文:青澤隆明©藤本史昭54ユライ・ヴァルチュハ(指揮) 読売日本交響楽団欧米で躍進する気鋭が読響初登場! 河村尚子とブラームスで共演 河村尚子がブラームスの協奏曲を弾く。自らの身体を通して音楽を導きだすのが彼女の持ち味だ。獲物を前にした猟師を思わせる集中力を保ったまま、鋭く透明感のあるタッチで、強い感情をフレーズに込めていく。 作曲家24歳のときに完成したピアノ協奏曲第1番は、若々しいパッションに満ちながら、「ピアノ付きの交響曲」と呼ばれるほどに重厚で巨大な音楽。密度の高い河村のピアノが、彼女との共演も多い読響と綿密に絡み合って一体化して響くブラームスが期待できるはずだ。 隠れた鬼才との呼び声も高い、指揮者のユライ・ヴァルチュハはスロバキア生まれの46歳。2016年までの7年間、RAI国立交響楽団の首席指揮者を務め、ナポリ・サンカルロ劇場の音楽監督を経て、今シーズンからヒューストン交響楽団の音楽監督に就く。2014年にNHK交響楽団に客演のため来日して異才たちのピアニズム 8 トーマス・ヘル(ピアノ)稀代の名手が魅せる変奏の世界 トーマス・ヘルの演奏は、ピアノを弾く愉楽に溢れている。かなりの難曲と思われる大作を前にして、彼の頭脳はもちろん、柔軟で弾力のある身体技巧が冴えわたると、ふつうは困難であるとみえる表現が、ここでは喜悦を呼び覚ますものに変わる。 リゲティのエチュード全3巻を愉しげに手なづけ、アイヴズの「コンコード・ソナタ」を遊興したヘルのピアノは、高度の知性というものがそのまま心身の喜びに直結することを、強靭な音も誇らしく、鮮やかに明かすものだった。 驚嘆の前2回に続く、トッパンホールでの三度目の正直は、ベートーヴェンの超大作「ディアベリ変奏曲」をメインに据えたプログラム。ドイツ現代のピアニストが、ドイツ音楽のモニュメントをどっしりと構えるのが楽しみだ。 変奏の巨匠晩年の境を縦横無尽に駆け巡る同曲は、大宇宙にも擬えてよい気宇壮大な創造物。ヴァリエーションをそ

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