飛ぶ鳥を落とす、と評してもまだ足りない。1996年フィンランド生まれのクラウス・マケラ。チェリストとしても優秀な腕前を持つ彼が、指揮のキャリアを歩んでからの勢いは息を呑むばかりだ。行く先々のオーケストラで旋風を巻き起こし、北欧の雄オスロ・フィルの首席指揮者の座に就いたのが2020年の秋。それに先立つ同年6月には、パリ管弦楽団の次期音楽監督に決定という報道が世を沸かせた(20年秋から音楽顧問を務めた上で、21年の秋に正式着任)。そして21年3月にはデッカの専属アーティストとなる。この名門レーベルが同じ待遇で指揮者と契約を結ぶのは1978年のリッカルド・シャイー以来と書けば、事の重みも伝わってこよう。 そのデッカからマケラの商業録音デビューとなる、オスロ・フィルとの『シベリウス交響曲全集』がリリースされたのは今年の3月(後続企画はショスタコーヴィチの予定)。海外音楽誌のレビューも絶賛の嵐だ。そして6月には、オランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管が次期首席指揮者に迎えるとの発表までなされた。この秋のシーズンからアーティスティック・パートナーとして共同作業に臨み、ポストに就くのは2027年。それほど待ってでも確保したい偉才なのである。 去る6月26日に彼が都響へ客演し、ショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」を振った演奏会に筆者も足を運び、指揮台が正面から見える席でその姿に接した。シャープでキレのある棒さばきは、流れのよさと沈着さを兼ね備えたテンポ設定ともども奇をてらうところがなく、しかし左手の何気ない動作や、顔つきや視線から伝わる情報量が素文:木幡一誠クラウス・マケラ ©Marco Borggreve晴らしく多い。バランス処理や緩急法に譜面上の難しさを伴う要素が介在する場面になるほど、目標となるゴールまでの道のりをオーケストラと共に最短距離で歩むような明晰さと聡明さが感嘆を誘う。そんな指揮者に楽団員が本気で応え、特別な行為に勤しんでいるという自負の念が合奏に漲る。なるほど、いい演奏になるわけだ。 そして来たる10月。マケラがパリ管と日本を訪れる。両者の相性の良さはWeb上の配信動画からも確認できるとおりだが、特に近現代のレパートリーで示す機能性の高さと、皮膚感覚的なタッチすら備わる色彩のグラデーションは圧巻の領域。管楽器大国フランスでも随一の名人たちのそろったセクションが自発性を存分にふりまく光景がうるわしい。 そんなコンビの“襲名披露公演”に最適な作品がプログラムを飾る。なかでも「海」は、細部にはりめぐらされた譜面上の仕掛けを掘り下げるほどに面白みの増す曲ゆえ、目の覚めるような体験すら期待できそうだ。「春の祭典」と「火の鳥」ではポテンシャル全開のパリ管とマケラが真剣勝負を繰り広げ、ラヴェルの「ボレロ」も通り一遍のショーピースという次元を超えて鳴り響く。そして同じ作曲家のピアノ協奏曲では、これを十八番とするアリス゠紗良・オットのソロに、指揮者とオーケストラがどんな化学反応を示してくれるだろう。語り草となること必至のステージが待っている。10/15(土)16:00 東京芸術劇場 コンサートホール(チケットスペース03-3224-9999)10/17(月)、10/18(火)各日19:00 サントリーホール(チケットスペース03-3224-9999)10/20(木)18:45 愛知県芸術劇場 コンサートホール(東海テレビチケットセンター052-951-9104)10/21(金)19:00 岡山シンフォニーホール(岡山県音楽文化協会086-224-6066)10/23(日)14:00 大阪/フェスティバルホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)8/5(金)(10/21のみ)、8/7(日)(10/21除く)発売https://avex.jp/classics/odp2022/ ※プログラムは公演により異なります。ツアーの詳細は左記ウェブサイトでご確認ください。40クラウス・マケラ(指揮)パリ管弦楽団いま最も注目の若き音楽監督が、名門オケを率いて来日!
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