eぶらあぼ 2022.08月号
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Information山形交響楽団 今後の演奏会鈴木秀美オラトリオシリーズ特別演奏会 “真夏の「メサイア」”〜やまぎん県民ホールシリーズVol.3〜8/7(日)14:00 やまぎん県民ホール指揮:鈴木秀美 ソプラノ:中江早希 カウンターテナー:上杉清仁 テノール:谷口洋介 バス:氷見健一郎 合唱:山響アマデウスコア曲目/ヘンデル:オラトリオ「メサイア」HWV56■ 山響チケットサービス023-616-6607 https://www.yamakyo.or.jpるようになった。定期演奏会に聴衆が定員の半分くらいという苦しい時期もあったそうだが、楽団として発信やプログラミングの工夫などを重ねて、いまや9割近い集客を実現している。 2019年からは阪哲朗が常任指揮者に就任。ドイツのレーゲンスブルク歌劇場で音楽総監督を務め、演奏ばかりか人事や予算に至るまで、あらゆることに関わってきた経験を持つ、誰よりも現場を知るマエストロである。日本に拠点を移したことで彼の指揮に接する機会が増えてきて、近年のテレビ番組で披露した流麗な指揮ぶりとヨーロッパの香りが感じられる快演も評判になった。その瑞々しい音楽の流れは、国内ではあまり接したことのないタイプの演奏に感じられる。 今回、阪のリハーサルを見学して、その秘密の一端を垣間見られた。とにかく楽員の自発性を引き出すことに注力していたのである。「本番でいかに自由で楽しくできるか」をモットーに、オケに任せたいポイントはあえて練習で作りこまず、本番の即興性やひらめきを導き出す。日々が新しい音楽体験になることを信条とし、「とにかくマンネリになりたくない。演奏で遊びがしたいんですよ」と何度も繰り阪 哲朗 ©Kazuhiko Suzuki返していた。その思いを全身の自在な動きで表現して、かつ楽曲としてまとめあげるマエストロの手腕には驚嘆するばかりだが、オーケストラとの相互理解が深まっていることの表れでもあろう。 阪は京都の生まれ育ちだが、両親は山形出身で、実は山形の人間であると語る。それだけ山形は彼にとって特別な場所で、ここで全力を注ぐという覚悟が様々なところから伝わってくる。音楽への情熱は言うに及ばずだが、スクールコンサートや若手への指導も条件にこだわらず可能な限り引き受け、自らの負担で「マエストロシート」を設定して子どもたちを招待するなど、様々な形で山形に尽くしている。自分のルーツというだけではなく、ここでこそ真にやりたかった活動ができているという充実感も感じられよう。 2020年以来の活動制限の時期には、無観客ながらベートーヴェンの交響曲に取り組み、その映像をソフト化したことで、阪と山響のすばらしい成果が広く伝わることにもなった。そういった経験とノウハウも積み重ね、今後は配信もより積極的に行っていくという。 文翔館という由緒ある施設で練習を行い、その窓からは山々を望める。自然と歴史を常に感じられる環境での活動は、山響独自のカラーを作る大きな要素になっている。阪哲朗と山形交響楽団の挑戦、今後も見届けていきたい。文翔館でのリハーサル37

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