eぶらあぼ 2022.08月号
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第94回 「コロナ禍だがシンガポールの新生フェスへ」 6月17日から21日まで、シンガポールの「cont·act コンテンポラリーダンス・フェスティバル(以下「cont·act」)」へ行ってきた。 「cont·act」の前身は、2010年に創設された「M1コンタクト・コンテンポラリーダンス・フェスティバル」である。M1はシンガポールを代表するモバイル通信会社で、社名を冠したスポンサーだったわけだ。これが約2年間の緩衝期間をおいて撤退することが決定。フェス存亡の危機だったが、創設者クイック・スィ・ブンKuik Swee Boonたちスタッフは諦めず、コロナ禍の期間に体制を立て直し、今回、新生フェスの記念すべき第1回を開催したのだ。そりゃあオレも駆けつけないわけにはいかん。 そしてその内容は、明らかにパワーアップしていた。従来は5日間程度だった日程も、全プログラムを入れると2週間ほどに延びている。日本同様に劇場内ではマスク着用が義務づけられていたが、会場はほぼ満員だった。 招聘を含む公募プログラムの「Open Stage」では計7組が出演した。面白いのは出演者の半数以上が「Singapore/Germany」と複数の所属国を書いていることだ。こんなところにも日本とは段違いの真のダイバーシティを見て取ることができる。 なかでも目を引いたのが四戸賢治である。四戸は現在デュッセルドルフを拠点としている人気ダンサーだ。オレが公式アドバイザーをしているフェスティバル「踊る。秋田」のコンペティションにファイナリストとして出場したことが、今回の招聘につながったのである。その時はコミカルなソロ作品だったが、今回は彼も卒業したフォルクヴァンク芸術大学(ピナ・バウシュの母校でもある)出身のダンサー3人とのグループ作品『ORGARHYTHM』だった。同名の超マニアックなリズムゲームもあるが「リズムによる134快感」ということだろう。冒頭から意表を突く展開(女性のモコモコの白い頭がじつは綿菓子で、いきなりかじり取られるとか)のあと、世界観をガラガラと変えていく巧みさ、後半は4人の動きが揃ったりずれたりするリズムの快感が小気味いい。思わず招聘したくなるチャーミングさがあり、実際忙しくしているようだ。日本での上演も心待ちにしている。 続く「Off Stage」プログラムは、若いダンサーのChew Shaw Enによるキュレーションで3作品が上演された。これもいい試みだ。目を引いたのはPat Toh『Aqua Lung』。潜水用の呼吸を止める訓練ソフトを実際に使って、幅1メートル程度の水槽に顔や上半身をつける。呼吸を止める時間が延びていくのを観客は固唾をのんで見守ってしまう。これはコロナ禍で注目される「呼吸」そのものの重要性も考えさせた。 じつはこのシンガポール取材中に、オレは石川県で開催された「北陸ダンスフェスティバル」からコンテンポラリー・ダンス講座を依頼されていた。これは「cont·act」同様、ダンサーが芸術監督を務めているフェス。宝栄美希芸術監督からは以前からオファーを受けていたものの、こういう形での開催となった。Zoomで日本時間の朝10時からの開催だったが、会場である小劇場は満員の盛況だった。次は石川県まで必ず行くぜ!Profileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお

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