eぶらあぼ 2022.08月号
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132それぞれ国際的に活躍を続けるアーティストである石上真由子と鈴木優人によって綴られる、シューマン夫妻とブラームスの音世界を凝縮させた一枚。ヴァイオリンとピアノの関係性が完全に対等であることにこだわった石上の意志が存分に感じられる選曲と演奏だ。音色は調和され、そして時に即興的にすら感じられるほど自由に音楽が羽ばたきながらも、繊細なコントロールの中で美しい会話が繰り広げられていく。石上、鈴木が共に互いの音楽を深く理解し、尊敬しているからこそ生み出されるものなのであろう。今回の録音のきっかけになった「予言の鳥」やブラームスのソナタにはとりわけ心を奪われる。(長井進之介)ベートーヴェン研究家として知られる音楽評論家・山根銀二の娘として生まれ、パリ国立音楽院でラザール・レヴィに師事。1960年のデビュー以来、国内外で絶え間なく演奏活動を続け、2013年には日本人初のベートーヴェン全ピアノ独奏作品録音プロジェクトを完結させた。そんな山根弥生子が、父の遺したエドウィン・フィッシャー全2巻のLPレコードを耳にして感動を覚えて以来、いつか取り組まねばと思い続けていたJ.S.バッハの“金字塔”を遂に完成させた。長年の経験に培われた指で汲まれる48曲は尽きない音楽の泉。子どもの頃、既に心酔していたというフーガが味わい深い。(東端哲也)ゲーハ=ペイシは20世紀ブラジルの作曲家。ヴィラ=ロボスの一つ下の世代に属するが、自国にとどまり各地の民謡やリズムを丹念に整理蒐集した。本アルバムに収められた「パウリスタ」「ペルナンブカーナ」という二つの交響的組曲にはその研究成果が十分に活用されているが、単純な引用ではなく自らの表現として消化し、鮮やかな管弦楽法でゴージャスな音楽に仕立てている。「ホーダ・ジ・アミーゴス(友達の輪)」は楽章ごとに異なる楽器にスポットを当てた。作曲家を囲む個性豊かな友人たちの肖像が浮かんでくる。演奏も身体に訴えるリズム、オープンでフランクな聴きやすさを引き出している。(江藤光紀)17世紀オランダの盲目の奏者ファン・エイクが遺した、全150曲から成る「笛の楽園」は、リコーダー奏者にとっての“聖典”。気鋭の名手として知られた江崎浩司は、世界的にも珍しい全曲録音に挑み、この第8弾で完遂へと至らしめた。民族楽器を含めた12種の笛を吹き分け、広大な響きの空間を創出。変幻自在の創意を随所に盛り込み、吹き込む息を繊細に制御すると、シンプルな構造の楽器から、いかに彩り豊かな表現が紡ぎ出されることか。はっとさせられる瞬間が、幾度も訪れる。江崎は昨年12月、50歳の若さで急逝。しかし、遺された名録音は、いつまでも人々の心を揺さぶり続ける。(寺西 肇)石上真由子(ヴァイオリン)鈴木優人(ピアノ)J.S.バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻、同第2巻山根弥生子(ピアノ)シューマン:「森の情景」より〈第7曲 予言の鳥〉、3つのロマンス op.94/C.シューマン:3つのロマンス op.22/ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番/J.S.バッハ(シューマン編):シャコンヌ ニ短調(ヴァイオリンとピアノのための)ゲーハ=ペイシ:交響的組曲第1番「パウリスタ」、同第2番「ペルナンブカーナ」、ホーダ・ジ・アミーゴス(友達の輪)ラウル・メネゼス(フルート)プブリオ・ダ・シウヴァ(オーボエ)パトリック・ヴィリオーニ(クラリネット)フェリペ・アルーダ(ファゴット)ニール・トムソン(指揮)ゴイアス・フィルハーモニー管弦楽団ナクソス・ジャパンNYCX-10322 ¥2200(税込)ヤコブ・ファン・エイク:「笛の楽園」より〈No.127 ローラ〉〜〈No.148 詩篇134番 主の僕らよ、こぞって主をたたえよ〉、付録 私は避ける事ができない(P.de.ヴォイス作)江崎浩司(リコーダー/その他)日本コロムビアCOCQ-85582 ¥3300(税込)コジマ録音ALCD-9230〜9233(4枚組) ¥4950(税込)フォンテックFOCD-9866 ¥3080(税込)ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番/石上真由子&鈴木優人ゲーハ=ペイシ:交響的組曲第1番、第2番 他/ニール・トムソン&ゴイアス・フィルハーモニー管ヤコブ・ファン・エイク:笛の楽園 Vol.8/江崎浩司CDCDCDCDJ.S.バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻&第2巻/山根弥生子

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