eぶらあぼ 2022.08月号
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130これぞ名手による上質なアンサンブルだ。野平一郎がもっとも信頼を寄せるヴァイオリニストの漆原啓子とチェリストの向山佳絵子と共演したベートーヴェンのピアノ・トリオ作品集である。野平自身が企画した2020年11月の演奏会のライブ録音であり、コンサートホールさながらの響きで三者の生き生きとした掛け合いが伝えられる。ベートーヴェンの記念すべき作品1を冠した第3番は若々しくも気品溢れる演奏。ピアノの煌めくようなタッチが印象に残る。有名な第5番「幽霊」では、第2楽章における弦楽器の伸びやかなレガートと息の長い歌心に胸を打たれる。(飯田有抄)オペラシアターこんにゃく座の歌役者・大石哲史が歌う、同劇団の代表・音楽監督である萩京子ソング集の第2弾。アルバム表題は朝日新聞に掲載された谷川俊太郎の詩による新作。ソプラノとバリトンの二重唱作品として出発した〈よだかの星〉(宮沢賢治)では、よだか/ひばり/鷹/川せみ/お日さま/星座たち…と各キャラクターを“ひとりかたりオペラ”として歌い分けるのが圧巻。女声三部合唱曲として書かれた〈虹〉(石垣りん)も見事だが、同劇団が難病の少女に贈った〈ねむり〉(まど・みちお)には、生きとし生けるものすべてが心を掴まれるはず。  (東端哲也)第5番&第7番に次ぐ伊藤亮太郎と清水和音によるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第2集もまた前作に劣らぬ出来栄え。控えめなヴィブラートと美音による折り目正しく端正な語り口は誠に稀有なもの。これらの特質はともすると「おとなしい」「主張が足りない」となる可能性もありうるが、伊藤はベートーヴェンの筆致に虚飾なく真正面から対峙し、その妙味を言葉の最良の意味で「過不足なく」活かし切ることに成功、作曲家の凄さと同時に伊藤の見識の高さを思い知らされる。清水はヴィヴィッドなリズムによってピアノパートの独立性・独創性を現前させ、伊藤と絶妙なコントラストを形成。名演だ。(藤原 聡)N響首席クラリネット奏者・伊藤圭と、多彩な活動を続けるピアノ奏者・長尾洋史が、情感豊かに綴った珠玉の小品集。技巧面よりもクラリネット特有のしみじみとした美しさが映える選曲がなされており、その深く柔らかな響きとピアノの絶妙なタッチに終始魅了される。全体の約半数を占める歌曲は特に秀逸。なかでもプーランクの「愛の小径」やフォーレの「夢のあとに」の歌いまわしに惹かれるし、次に多いクラリネットのオリジナル作品ではマンガーニの2曲、器楽作品ではパラディスの「シチリアーノ」の精妙な表現が光っている。まさしく“マインド”を感じさせる魅力的な一枚。(柴田克彦)ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第3番、同第5番「幽霊」、同第6番野平一郎(ピアノ)漆原啓子(ヴァイオリン)向山佳絵子(チェロ)萩京子:ある墓碑銘、よだかの星、千年ほど…、明るいほうへ、小さな草、ねむり、雨、地球よ廻転を止めろ、今日は一日…、餞(はなむけ)、虹、わたしの好きな歌大石哲史(うた/ピアニカ)服部真理子(ピアノ)中田有(チェロ)ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第1番、同第3番、同第8番伊藤亮太郎(ヴァイオリン)清水和音(ピアノ)マンガーニ:クラリネットのためのテーマ、ロマンツァ/プーランク:愛の小径/ドビュッシー(ハイフェッツ編):美しき夕暮れ/フォーレ:夢のあとに、子守歌/シューマン:夕べの歌/パラディス:シチリアーノ/ブラームス:子守歌/ラフマニノフ:ヴォカリーズ/レーガー:ロマンツェ ト長調/R.シュトラウス:万霊節、明日の朝 他伊藤圭(クラリネット)長尾洋史(ピアノ)録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9046 ¥3080(税込)収録:2020年11月、王子ホール(ライブ)ナミ・レコードWWCC-7967 ¥2750(税込)コジマ録音ALCD-7281 ¥3080(税込)オクタヴィア・レコードOVCL-00785 ¥3520(税込)ベートーヴェン:ピアノ・トリオ全集・Ⅱ/野平一郎&漆原啓子&向山佳絵子大石哲史 萩京子を歌うⅡ ある墓碑銘/大石哲史&服部真理子&中田有ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第1番・第3番・第8番/伊藤亮太郎&清水和音マインド クラリネット小品集/伊藤圭CDCDSACDCD

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