eぶらあぼ 2022.08月号
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128山形交響楽団は8型対向配置で、弦はヴィブラート少な目で透明な響き、これにナチュラル・ブラス、バロック・ティンパニが加わる。このピリオド志向のオケから阪哲朗は実に生き生きとした豊かな音楽を引き出す。「田園」はキビキビと爽やかに前進する。緩徐楽章もしみじみとしてとても美しい。スケルツォはリズムの切れ味がよく、楽しげな雰囲気もいい。第4楽章「雷雨、嵐」は野性的なブラスが炸裂。終楽章では感謝の気持ちが自然に伝わってくる。第7番でもオケ全体が先鋭なリズムに乗って躍動する。とりわけフィナーレは、ライブの熱気も加わって、怖ろしいほどの頂点に到達する。名演だ。(横原千史)N響次席チェロ奏者を務め、ソロや室内楽でも精力的に活動する藤村俊介。そして、ウィーンや日本国内で指導者としても活躍する一方、国内外の巨匠と共演を重ねてきたピアノの名手・星野英子。2人の名手が、R.シュトラウス、ブラームスの第1番、ベートーヴェンの第4番と3つのチェロ・ソナタの傑作に対峙した。穏やかなだけに留まらず、時に感情を露わにする場面も。豊潤な藤村の音色は、決してひとつの色彩だけで塗り潰されることなく、細かな陰影を伴って、作品の内面性もあぶり出す。一方の星野は決して饒舌に過ぎず、しかし繊細で心遣いの行き届いた絶妙のプレイで応えている。(笹田和人)吹奏楽界でつとに名高い現代アメリカの作曲家バーンズの代表的名曲を、佐渡裕と手兵シエナが想いを込めて録音した渾身の一作。作品(1996年初演)自体は、巨大編成による全4楽章・約40分の大作で、亡き愛娘を偲びつつ未来への希望を表したドラマティックな音楽。それがセッション録音ならではの細やかな彫琢で、迫力十分に表現されている。緊迫感溢れる第1楽章、機智とダイナミズムの対比が見事な第2楽章、幻想的な美しさが光る第3楽章、サウンドとリズムがまさに希望を感じさせる第4楽章と、全体の構成や変化も実に鮮やか。これは迫真の名演。  (柴田克彦)ジャズ・ピアニスト、高田ひろ子の弾く武満ソングをライブで聴いたことがある。メロディや言葉の隅々に音を沁みこませ、その世界を広げていくセンスに驚嘆しながら、夢見心地なひと時を過ごした。このディスクはその記憶を裏書きしてくれただけでなく、さらにカウンターテナーの新星・村松稔之の、この世のものとも思えない声という魅力まで加わっている。母音を美しく響かせ、日本語の自然な韻律を引き出す崩し具合が絶妙だ。高音域にも独特なまろみと強さがある。武満ソングのクラシカルなアプローチには、いつも小さな違和があった。これぞ正解、という演奏に初めて出会った気分だ。(江藤光紀)ベートーヴェン交響曲選集 2020年&2021年ライブ/阪哲朗&山響ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」、同第7番 イ長調阪哲朗(指揮)山形交響楽団バーンズ:交響曲第3番/佐渡裕&シエナ・ウインド・オーケストラ小さな空 武満徹ソング・ブック/村松稔之&高田ひろ子R.シュトラウス:チェロとピアノのためのソナタ/ブラームス:ピアノとチェロのためのソナタ第1番、6つの小品 op.118-2 間奏曲/ベートーヴェン:ピアノとチェロのためのソナタ第4番/シューベルト:アヴェ・マリア藤村俊介(チェロ)星野英子(ピアノ)村松稔之(カウンターテナー)高田ひろ子(ピアノ)安ヵ川大樹(ベース)カメラータ・トウキョウCMCD-28384 ¥3080(税込)バーンズ:交響曲第3番佐渡裕(指揮)シエナ・ウインド・オーケストラ武満徹:明日ハ晴レカナ 曇リカナ、見えないこども、恋のかくれんぼ、死んだ男の残したものは、島へ、MI・YO・TA、翼、三月のうた、うたうだけ、小さな空、めぐり逢い、雪、さようなら、○と△の歌収録:2020年6月、やまぎん県民ホール(ライブ) 他山形交響楽団OVEP-00019 ¥2750(税込)マイスター・ミュージックMM-4508 ¥3300(税込)エイベックス・エンタテインメントAVCL-84131 ¥2640(税込)DVDCDCDCDR.シュトラウス:チェロとピアノのためのソナタ 他/藤村俊介&星野英子

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