35取材・文:伊熊よし子いてほしいですね。シマノフスキは本当にピアニスト泣かせの難しさ。どうしてこんなに難しい曲を選んだのかと言いたくなるけど(笑)、百音さんは“心で音楽をする”稀有なヴァイオリニストですので、また一緒に演奏するのがすごく楽しみです」服部「この作品は二人のよさが存分に現れると思います。朧げな楽想で始まり逆の要素にたどり着く面がある。自分のなかから湧き出てくるさまざまな要素を打ち破って、“希望と勇気”にたどり着く。その意味で今回のテーマにピッタリだと思います」亀井「僕は難易度の高い作品ばかり演奏しますが、それぞれの曲から心臓の鼓動が感じられると思います。ナマの音楽はその場、その時の一瞬を聴衆と共有するもの。その瞬間が喜びです。そして常に前を向き、先を目指して進む。その力強い思いを抱いて演奏します。まさに“希望と勇気”をもって…」 京都でのコンサートの際には、二人とも鴨川周辺を散策したり、おいしい物を食べたりして古都の夏を楽しみたいと口をそろえる。そして奨学生の報告会やアーティスト研修会でさまざまな音楽仲間に会えることも期待している。服部「奨学生の交流も楽しいですよ。なかなか会えない人や親しい友人に会ったりして、お互いの近況報告などをします。音楽がつなぐ縁、絆が深まる場でもあります」Profile服部百音ローム ミュージック ファンデーション2019、2020年度奨学生。5歳よりヴァイオリンをはじめ8歳でオーケストラと共演。10歳でリピンスキ・ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクール史上最年少第1位、以後さまざまな国際コンクールでグランプリ、1位を受賞。ハチャトリアン音楽祭、トランス・シベリアン音楽祭などにも参加し国内外で演奏活動を行う。国内ではNHK交響楽団をはじめとする数々の著名オーケストラ、指揮者と共演を重ね、これまでに新日鉄住金音楽賞、岩谷時子賞、アリオン桐朋音楽賞、服部真二音楽賞、ホテルオークラ音楽賞、出光音楽賞、ブルガリ アウローラ アワードを受賞。現在桐朋学園大学院に在籍。亀井聖矢ローム ミュージック ファンデーション2021、2022年度奨学生。第88回日本音楽コンクールピアノ部門 第1位および岩谷賞(聴衆賞)、第43回ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリおよび聴衆賞、ほか多数受賞。東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、千葉交響楽団、東京21世紀管弦楽団などと共演。これまでに青木真由子、杉浦日出夫、現在、上野久子、岡本美智子、長谷正一の各氏に師事。愛知県立明和高等学校音楽科を経て、飛び入学特待生として桐朋学園大学に入学。現在桐朋学園大学4年在学中。スカラシップ コンサートは音楽がつなぐ縁、絆が深まる場 次世代を担う若き音楽家たちを支援するローム ミュージック ファンデーション。この奨学生は鍵盤、弦・管楽器、声楽など幅広い分野から選ばれ、国内外で研鑽を積む。その成果を披露するコンサートが7月から8月にかけて京都と東京で開催、全公演ライブ配信される。今年のテーマは「希望と勇気」。8月21日に演奏する服部百音(ヴァイオリン、2019、2020年度奨学生、夜の部)と亀井聖矢(ピアノ、2021、2022年度奨学生、昼・夜の部)に話を聞いた。 二人はこの奨学生期間にどのような経験をし、いかなる学びを得たのだろうか。服部「コロナ禍の最中にはドイツで演奏会を開いていました。16回のコンサートの3回が終わった時点で急遽コンサートが禁止になり帰国することになり、以後まったく演奏の場がなくなるという経験したことのない状況に陥りました。また同じ時期に祖父も亡くなり、混沌としながらも自分の生き方を見据えどのように音楽と対峙していくべきかをじっくり考えた時期でした」亀井「国際コンクールを受けたり、海外でいろんな先生のレッスンを受けたりする際、この奨学生に選ばれて本当によかったと思っています。もうすぐヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールも受けます(6月2日〜18日)。コンサートとコンクールは異なりますが、自分の意思をしっかり示すことを心がけ、聴いてくださる方が喜んでくれる演奏を目指します」 今回の選曲についてはどのような考えが?服部「私はシマノフスキの『夜想曲とタランテラ』を弾きますが、この曲は和声感が独特で、質感がはっきりしない曖昧模糊とした面があり、その描写に一時期は取りつかれたようになってしまいました。夜想曲は5分ほどで起承転結があり、抽象的で煙や水や気体のようでもある。エネルギーの持続も特有で、爆発したかと思うと最後は消え入るように終わる。急にタランテラが登場するところも人を驚かせるような感じです。ピアノパートがすごく難しいのですが、亀井さんだったら大丈夫、丁々発止の対話が可能になると思います」亀井「僕はソロではバラキレフの『イスラメイ』を、百音さんとのデュオでシマノフスキを弾きます。『イスラメイ』は超難度の作品ですが、中学生のころにロシアのボリス・ベレゾフスキーの録音を聴いて、大きな衝撃を受けました。絶対に自分で弾いてみたいと思い、弾き込んでいくうちに大好きになり、以来ずっと弾き続けています。技巧的な難しさのなかに面白さやユーモアも含まれている、そんなところを聴
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