29取材・文:柴田克彦スの管弦楽曲や交響曲第7番、フランスものや武満徹、バルトーク等、実に多彩だ。 「私はシベリウスとブルックナーに近しい関連性を感じています。それは人よりも自然界が身近にあるといった感覚とも言えます。今回はそのシベリウス、あるいはベルリオーズ、ドビュッシー、ラヴェルと組み合わせることで、ブルックナーの新たな一面が映し出されると考えています。またシベリウスの最後の交響曲第7番は1楽章の短い時間に多くのことが起こり、驚くべき世界が描かれます。晩年の交響詩『タピオラ』のクライマックスは、まるで森を燃え尽くす火のようです。興味深いことにブルックナーが交響曲第7番に着手したのは、住居近くのウィーン国立歌劇場で火事が発生し、多くの犠牲者を出した現場を目撃した直後のこと。最初に完成したスケルツォ楽章は、小さな炎が徐々に燃え広がっていくかのように聴こえます」 他にエルガーの交響曲第2番というイギリスのコンビならではの演目もある。 「この曲は、ブリティッシュ・クラシックの純金であり、20世紀初期のエドワード調のカリカチュアとされるエルガーから一番かけ離れた作品でもあります。その音楽は始まりの象徴であり、新しいことに向けて開け放たれた扉です。これはパンデミックから再起する気持ちに通じます」 最後に日本の聴衆に向けてのメッセージを。 「私たちは日本を再び訪れるのがとても楽しみです。生で音楽を体験するのは何ものにも代え難いので、ツアーに戻れるのはとても喜ばしいこと。この数年に私たちが多く学び経験した成果をお聴きいただきたいと思います」 昨年、ラトルが2023年秋からバイエルン放送響に移ることが発表された。ならばコンビ最後の来日の可能性大となるこの名コラボを、絶対に聴き逃してはならない。Profile英国リヴァプール出身。バーミンガム市響を率いた後、2002〜18年にはベルリン・フィルの芸術監督として活躍。17年からはロンドン響(LSO)の音楽監督に就任した。一貫してクリエイティヴな活動を続け、数多い録音は高い評価を得、教育プログラムなども開拓している。ウィーン・フィル、ボストン響、METをはじめ、世界各地の主要楽団やオペラハウスと長年にわたる強い信頼関係を築き、目覚ましい成果を残している。2023/24年からはLSOの名誉指揮者に、そして同シーズンからバイエルン放送響の首席指揮者に就任予定。ツアーの再開に、心を昂らせています 世界トップ級の指揮者サイモン・ラトルが、今秋、音楽監督を務めるイギリス最高のオーケストラ、ロンドン交響楽団(LSO)を率いて来日する。 2020年の日本公演の中止をはじめ、ここ2年はマエストロとLSOにとっても通常と異なる状況が続いた。 「まず何より、音楽という多様な芸術は人間にとって重要な一面であり、聴くこと、演奏することで魂を養うことができると思っています。このパンデミックはフリーランスの音楽家に大きな経済的打撃を与えましたが、LSOとしては少人数で演奏できるレパートリーを探求する画期的な機会となりました。活動再開後は、小規模なLSOセント・ルークスにリハーサルと演奏収録の場を移し、70名までの奏者による音楽を突き詰めました。予期せぬ変更等にも絶えず直面しましたが、音楽家たちは共に演奏したいという強い意志を胸に柔軟に対応し、この期間にバルトークの歌劇《青ひげ公の城》を日本の皆様のために特別収録しました。またコロナ禍でデジタル技術は飛躍的に進化し、演奏家も配信する能力を伸ばしました」 彼はLSOに関してこう語る。 「LSOは素晴らしい白ワインです。銀のように柔軟で多様な性質を持ち、しかも非常にイギリス的です。私が特に魅力的と感じるイギリスの国民性は、チャレンジ精神が旺盛なこと、そして未来を語ることです。115年以上の輝かしい歴史を持つこの楽団との活動の中で、誰も過去を振り返ることはしません。皆が常に前向きで、『次は何をしようか、何か新しいことはできないか?』と考えている。これが心動かされる特徴だと思います」 今回の日本ツアーへの意気込みも十分だ。 「LSOは日本と長く良き関係を保っています。音楽家にとって異なる文化の聴衆に接するのはとても貴重な経験であり、その上、日本ではどこに行っても素晴らしいホールで演奏することができます。これは音楽家として重要な活動の一部であり、特に今回は、接する機会が長く失われていたので気持ちが昂ります」 プログラムにも意図がある。 「私はコンセプトでプログラムを構成するよりも、組み合わせた作品がお互いに会話を繰り広げ、それが作品の再評価や新しい発見に繋がることに関心があります。お客様も作品の組み合わせから同様の体験を得られることを期待しています」 内容は、ブルックナーの交響曲第7番、シベリウ
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