eぶらあぼ 2022.7月号
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140レーガー:クラリネット・ソナタ集/伊藤圭&長尾洋史アントン・エーベルル:鍵盤楽器のための作品集/名■■■越小百合母に捧げる子守唄〜左手のためのピアノ小品集〜/舘野泉愛する歌/野々下由香里&小倉貴久子ソロや室内楽でも活躍するN響首席クラリネット奏者・伊藤圭と、多彩な活動を続けるピアニスト長尾洋史による、ドイツ後期ロマン派の作曲家レーガーが残した全3曲のクラリネット・ソナタを網羅したアルバム。柔らかくも哀感が漂う伊藤の音色は、こうした“ロマン派の黄昏”的な音楽に相応しく、長尾のピアノの雄弁さも光っている。第1番と第2番は大きな影響を受けたというブラームスの同ソナタを彷彿させるし、第1番の清澄さと第2番のエレガンスの対照も妙味十分。より多彩な第3番も鮮やかだ。晦渋なイメージのあるレーガー作品の美点に気づかせてくれる好盤。(柴田克彦)名越小百合はブリュッセルを拠点とする歴史的鍵盤楽器奏者。本作はモーツァルトの友人であり、当時ベートーヴェンを凌ぐ勢いで人気があったというウィーンの音楽家アントン・エーベルル(1765〜1807)の作品集である。名越が選曲した3曲のソナタには、古典派からロマン派への移行期に輝きを放った鍵盤音楽の華やかな技巧性に溢れる。使用フォルテピアノは1805年頃のブロッドマン製のオリジナル楽器だ。ローマ・フォルテピアノ国際コンクールの賞としてイタリアの修道院で収録。たっぷりとした残響とともに時代の香りを生き生きと伝えるアルバム。 (飯田有抄)「左手のピアニスト」として、左手のための作品の普及に尽力し、示す音楽の深さ、色彩の豊かさによって多くの人々を魅了し続ける舘野泉。今回は彼の美しい音色、そして聴く者の心を包み込むような音楽が最大限に発揮されている。“母に捧げる子守唄”というタイトルから、あたたかい音楽を奏でることを意図しているのは伝わってくるが、もはやその域を超え、“祈り”すら感じさせるほど、透明感のある音色と真摯な音楽が展開している。さらにピアノが鍵盤楽器であることを忘れさせるほどに豊かな響きは、歌声のように聴く者に寄り添ってくれる。すべての人にとっての“子守唄”となるだろう。(長井進之介)明治時代に西洋音楽を取り込んで花開いた“日本歌曲”黎明期の名作と、その誇らしい子孫ともいえる現代の木下牧子の作品をカップリングした魅惑の一枚。瀧廉太郎、山田耕筰から20世紀の平井康三郎、髙田三郎まで、誰もが知る愛唱歌が勢揃いする前半(野平多美による解説文も必見!)は、橋本國彦が共に与謝野晶子門下の深尾須磨子(詩人)と荻野綾子(大正〜昭和を生きた伝説の歌姫)のために書いたアヴァンギャルドな〈舞〉(初稿譜に基づく)が圧巻。そして今日の声楽家に愛される木下作品が、やなせたかしの世界を見事なまでに歌に昇華しているとわかる。 (東端哲也)レーガー:クラリネット・ソナタ第1番〜第3番伊藤圭(クラリネット)長尾洋史(ピアノ)エーベルル:ソナチネ ハ長調、グランド・ソナタ ト短調、同ハ長調、モーツァルトのオペラ《魔笛》より「恋を知る男たちは」の主題による12の変奏曲、ソナタ ハ短調 第2楽章名越小百合(フォルテピアノ)Brilliant ClassicsBRL96509 ¥1980(税込)モーツァルト(宮下秀樹編):アヴェ・ヴェルム・コルプス/樹原涼子:ふたり、想い出の小箱/塚本一実:母に捧げる子守唄/内藤正彦:哀歌/梶谷修:祈り/山田耕筰(梶谷修編):赤とんぼ/有馬礼子:素描組曲〜左手のための子どもに聴かせたいピアノ曲〜/光永浩一郎:かもめの水兵さんによるオマージュ 他舘野泉(ピアノ)オクタヴィア・レコードOVCT-00199 ¥3520(税込)平井康三郎:ゆりかご、びいでびいで/山田耕筰編:中国地方の子守歌/大中寅二:椰子の実/山田耕筰:かやの木山の、曼珠沙華/杉山長谷夫:出船/中田章:早春賦/弘田龍太郎:浜千鳥、叱られて/近衛秀麿:ちんちん千鳥/瀧廉太郎:荒城の月/橋本國彦:舞(初稿譜に基づく)/髙田三郎:くちなし/木下牧子:愛する歌野々下由香里(ソプラノ)小倉貴久子(ピアノ)コジマ録音ALCD-7280 ¥3080(税込)録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9045 ¥3080(税込)CDCDSACDCD

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