eぶらあぼ 2022.7月号
137/165

134マーラー:交響曲第1番「巨人」/ジョナサン・ノット&東響藤倉大:ピアノ協奏曲第3番「インパルス」、ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調 他/小菅優藤倉大:ピアノ協奏曲第3番「インパルス」、WHIM〜ピアノ・ソロのための/ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調小菅優(ピアノ)ライアン・ウィグルスワース(指揮)BBC交響楽団ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全3曲とスケルツォ/田野倉雅秋&渡邉康雄日本歌曲 優しい歌たち 若やぐバリトン八十二歳/大嶺光洋&宮崎芳弥コロナ禍の21年5月、音楽監督ノットが東響に帰還して残した感動のライブ記録。すべてが綿密・微細で濃厚な、従来のスタイルとは一線を画したアプローチによる演奏だ。第1楽章冒頭からあらゆる動きに命が吹きこまれながら、ゆったりと歩が進められていく。それでいて終盤の畳み込みは鮮やか。以降も同様で、様々なフレーズが明確に縁取られ、第4楽章の沈静部分のニュアンスの豊かさと激しい場面との対比等が耳を奪う。そして、こうした方向性が大河のようなうねりを生み出し、曲全体に耳新たな迫真性をもたらす。コンビ8年目の絆を反映した個性的な名盤。(柴田克彦)何か美しいメロディーを予感させながら、疾走し続けるオブリガートとなったピアノに、オーケストラが色とりどりのフットノートを挿入していく。聴き手は宙づりにされたまま、目の前の風景だけが万華鏡のように変化していく26分間。藤倉大の異形のコンチェルトを、実演を重ねた小菅優が血肉化した上でのセッション録音だ。ラヴェルの協奏曲に移った瞬間、藤倉作品で姿を潜めていたメロディーがまるで種明かしのように鳴り響き、第2楽章で胃の腑にゆっくりと落ちていった。「WHIM」は藤倉の協奏曲のカデンツァ部を独立させたもの。一瞬で変わる色合いの連続という、この曲のエッセンスを体現している。(江藤光紀)日本フィルなどのコンサートマスターで大活躍の田野倉雅秋のブラームス全ソナタ・ライブ録音。第1番の冒頭から清潔で美しい音に魅了される。のびやかな音で優しい表情。ピアノの渡邉康雄も繊細な造りがとてもきれい。ブラームスらしい入念な展開部も聴き応えがある。第2番第1楽章での二人の激しいせめぎ合いとデリケートなニュアンスのバランスの良さも聴きものだ。第2楽章では、緩徐な歌とスケルツォの躍動の対比づけが絶妙で、それぞれの性格を際立たせる。第3番はそこここに現れる内省的な表情が印象的で、厳しい造形から作曲家晩年の心模様が浮き彫りにされる。見事なブラームスだ。(横原千史)様々な社会経験を積みながら鍛錬を重ね、演奏活動を続けてきた大嶺光洋。歌に対するひたむきな愛情と積み重ねてきた経験が昇華された歌声は多くの人々を魅了してきた。傘寿にリリースされた前作から2年経っての今作、豊かな響きの歌声と、歌詞の意味を丁寧に伝える歌唱は健在。むしろ、よりのびやかで、歌詞の裏側にあるもの、情景といったものを“香らせる”ような歌唱が印象的である。言葉がシンプルであればあるほどそれが顕著で、中田喜直の「ほしとたんぽぽ」や木下牧子の「さびしいカシの木」など、素朴に語りかけるような作品からは特に水彩画のような情景が見えてくる。(長井進之介)マーラー:交響曲第1番「巨人」ジョナサン・ノット(指揮)東京交響楽団ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番〜第3番、スケルツォ ハ短調田野倉雅秋(ヴァイオリン)渡邉康雄(ピアノ)中田喜直:ほしとたんぽぽ、夏の思い出/團伊玖磨:子守歌、秋の野、花の街、ひぐらし/大中恩:ぴいぴ、ある日、幸福が遠すぎたら/湯山昭:あやめの歌、いつもの道/三善晃:秋の風、栗の実、仔ぎつねの歌、駅/木下牧子:さびしいカシの木、夕顔、月の角笛、うぐいす 他 大嶺光洋(バリトン)宮崎芳弥(ピアノ)コジマ録音ALCD-9236 ¥3080(税込)収録:2021年5月、ミューザ川崎シンフォニーホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00758 ¥3520(税込)ソニーミュージックSICX 10016 ¥3300(税込)収録:2021年2月、東京文化会館(小)(ライブ)ナミ・レコードWWCC-7965 ¥2750(税込)SACDSACDCDCD

元のページ  ../index.html#137

このブックを見る