拡大版はぶらあぼONLINEで!→左から当麻野乃、川北裕暉、石澤花音、杉山陽菜、上郡山由夏、平林綾華市立浦和の吹奏楽部メンバーにとっては、自分たちが演奏する予定の《サーカスハットマーチ》の演奏を学べるこれ以上ないチャンスだ。 野乃は、同じサックスパートの3年生の杉山陽菜(はるな)、上郡山由夏(かみこおりやまゆか)、平林綾華、石澤花音(かのん)、川北裕暉(ゆうき)、さらに顧問の小泉信介先生を加えた7人で本番前日のリハーサルを見学した。「山田さんが伝えたイメージを、すぐに上野さんたち奏者が演奏で表現できるのがすごい」「自分たちと同じ楽器を使っているのに、聴いたことがないような音が響いている」「自分のパートが休みのときでも演奏に参加しているような雰囲気が伝わってくる」 6人は初めて目にするプロのリハーサルに驚きを隠せなかった。 何より全員が感じていたことは、「音楽を奏でる楽しさや喜びが伝わってくる」ということだった。それは、ともすると自分たちが忘れてしまいがちになるものだった。 ♪ リハーサル終了後、市立浦和の6人と小泉先生は楽団のはからいで特別に上野と話す時間をもらった。質問に答える上野耕平さん 上野は緊張気味の野乃たちを見て微笑みながら、本番前日はリラックスして早めに寝るようにしていること、吹奏楽の面白さは異なる楽器の音色が混ざり合った音が出せるところにあることなどを語った。 さらに、上野はこんなことを言った。「演奏で音を外したからって命を取られるわけじゃないんだから、どうやったら楽しくなるかっていう方向に音楽を持っていったほうがいいですよ。失敗を恐れていたら、楽しい音楽はできない。自分もいつも大事故を覚悟で吹いているし、もし大事故を起こしたとしてもちょっと恥をかくだけ。吹奏楽コンクールもそうでしょう。失敗を恐れず、思い切り表現をしたほうが伝わるし、それこそが金賞よりも価値があることだと思いませんか?」 その言葉は、野乃たちの心に刺さった。 ♪ 翌日、市立浦和の6人はぱんだウインドオーケストラと山田和樹による演奏会本番に足を運んだ。そこには、上野が語った「どうやったら楽しくなるか」の答えがあった。 指揮者と各奏者一人ひとりから音楽の喜びが湧き出してくるような演奏を聴きながら、部長の野乃は思った。「コンクールに向けて課題曲を突き詰めて練習していくとだんだん苦しくなってしまう。でも、上野さんたちみたいに表現できたら、練習でも本番でも楽しさを見つけられるんじゃないかな……」 野乃たち3年生にとって、高校生活最後の吹奏楽コンクール。出るからには、その頂点である全国大会に出場してみたい。最高賞である金賞を手にし、歓喜に酔いしれたい。 けれど、何より大切なのは、たとえコンクールでも楽しい音楽を奏でること。そのためには失敗を恐れず、自分がやりたい表現に挑もう。コンクールを、楽しもう!「それこそが金賞よりも価値があることだと思いませんか?」 上野の言葉を胸に、野乃たち市立浦和高校吹奏楽部は夏に向けて走り出していく。33
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