23取材・文:伊熊よし子 写真:野口 博 みずみずしい若葉が香り、涼やかな風が吹き込む初夏の季節、あふれんばかりの緑に囲まれた調布市で開催される調布国際音楽祭が、2022年で10回目というメモリアルイヤーを迎える。今年は「“BACH”TO THE FUTURE 未来へつなぐ音楽祭」をテーマに、バッハを核とした興味深いプログラムが組まれ、個性あふれる実力派アーティストが一堂に会する。 その調布国際音楽祭のエグゼクティブ・プロデューサーを務める鈴木優人に、第10回を迎えた音楽祭の「現在」の状況と、「未来」を見据えた長期的なスパンの話を聞いた。 「あっという間の10年ですね。第1回が始まった当初は楽しさと気負いが混在し、なんとか調布に来てほしいという気持ちでいっぱいでした。もちろん、10年経っても初心は忘れず、調布という街に足を運んでほしいと思い続けています。海外の音楽祭に出演したりして体験した良いところも調布に取り入れたいと思っています。印象に残っているのは、街全体を盛り上げているスコットランド・エディンバラ国際フェスティバルやニュージーランド・ウェリントンの音楽祭。観光集客や経済効果もしっかり上げています」 調布国際音楽祭は、「あくまでもお祭り。上質でクオリティの高い音楽家が集まり、その演奏を全身で受け止め、楽しんでほしいですね。縁日のように、個性的で興味深いコンサートがずらりと並んでいます。こっちを聴いて楽しかったから、次はあっちに、というように思う存分楽しんでほしい」と明言する。 「去年と同じものをやろうという気持ちはまったくありません。予定調和の感覚はなく、常に新しい企画、斬新な内容、みんながあっと驚くような刺激に満ちたプログラムを提供していきたいと考えています。今年は9日間に増えましたから、来年は10日間かな(笑)。前進あるのみです。 バッハ・コレギウム・ジャパンはこの音楽祭の核たる部分ですが、バッハ以外の作品も演奏しますし、フェスティバル・オーケストラも大きな成長を示しています。今回は、若き才能にあふれたピアニストが数多く参加してくれ、まさに“ピアニストの祭典”のようになっています。アーティストと相談しながら決めた個性的なプログラムは、聴いてくださる方たちもきっと新たな感動があると思います。期待してください。 この音楽祭は、一度参加してくれたら、もう仲間という感じです。村治佳織さんは今年2度目の参加ですが、前回とは異なった選曲で視野の広さを披露してくれます。かてぃん(角野隼斗)くんは以前からよく知っていて、バリアを作らずに活動するすばらしい音楽家だと思っています。小林愛実さんには、『バッハも入れてくれますか?』と聞いたら『パルティータ第2番』を選んでくれました。岡本誠司さんは、2013年の第1回のときにフェスティバル・オーケストラのコンサートマスターを務め、ソリストとしても演奏してくれました。その活躍は目を見張るものがありますね。河村尚子さんもドイツから帰国して参加してくれ、シューマンのピアノ協奏曲を演奏します。こうした実力と人気を兼ね備えた音楽家が集まってくるわけです。僕も頑張っていろいろ演奏し、“まさトーク”もするんですよ」 2020年に出演が予定されていたNHK交響楽団も2年越しで初登場し、鈴木優人指揮、ヴァイオリンの郷古廉との共演でバッハ、メンデルスゾーン、モーツァルトを演奏する予定である。 「10年を迎えたからといって安定路線にはならず、常に挑戦する気持ちを忘れたくない。時代に合った内容を探求し、聴きに来てくれる人たちの感性をグッと引き上げていくような、またサプライズでワクワクさせるような、そんな音楽祭を目指したい。調布は深大寺もあり、お蕎麦もおいしい(笑)。いろんなニーズに応えることができる街。音楽祭のエンブレムはその広がりと自然を象徴しています。音楽祭の3つの柱―バッハの演奏、アートとの連携、次世代への継承―を基本精神に、今後もより視野を広げていきます。ぜひ、調布で音楽を楽しんで仲間になってください!!」Profile1981年オランダ生まれ。東京藝術大学及び同大学院修了。オランダ・ハーグ王立音楽院修了。令和2年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第18回齋藤秀雄メモリアル基金賞、第18回ホテルオークラ音楽賞、第29回渡邉曉雄音楽基金音楽賞受賞。2018年9月よりバッハ・コレギウム・ジャパン首席指揮者、20年4月から読売日本交響楽団指揮者/クリエイティヴ・パートナーに就任。調布国際音楽祭エグゼクティブ・プロデューサー、舞台演出、企画プロデュース、作曲とその活動に垣根はなく各方面から大きな期待が寄せられている。九州大学客員教授。常に刺激に満ちたプログラムを ── 第10回を迎えた調布国際音楽祭
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