eぶらあぼ 2022.6月号
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20取材・文:宮本 明山。神奈川県からは富士山がよく見えるから、神奈川のイメージともつながります。 『アルプス交響曲』と『連祷富士』。どちらにも祈りがあります。三善さんも、『音楽は祈りであるし、人は祈らなければならない』と、つねづね言っていました。人間の一番根源的な営みです」 横浜みなとみらいホールのオープンは1998年5月。開館まもなくから続く名物企画のひとつに「こどもの日コンサート」があるが、沼尻はその第1回~第3回(2000~2002年)を指揮している。 「あれは、当時館長だった渡壁煇さんが、サントリーホールにいらした時に僕と一緒にやっていた企画だったんです。いい企画だから、2人で培ってきたエッセンスをそのまま横浜に持っていこうと。僕ら2人がやればパクリとは言われないでしょう(笑)? 今も続いているのはうれしいですね」 三善門下の兄弟子・池辺晋一郎が館長を務めていた2014年1月に初演したホール委嘱作品の、歌劇《竹取物語》のイメージも鮮烈だ。 「演奏会形式のオペラを、という依頼でした。そのスタイルは最近けっこう流行っているので、ちょっと先駆けたかなという気はしています。オペラをシンプルに音楽中心で見せるのは、僕は悪くないと思うんですよ。今後また、たとえばホールと神奈川フィルの共同で、できたらいいですね」 沼尻と神奈川フィルは、開幕公演の翌日にも、名前と姿を「ヨコハマ・ポップス・オーケストラ」に変えて、ジャズ作曲家・挾間美帆の新曲を初演する。 「挾間さんのスコアは、パッと譜面を見るとセオリー通りじゃなかったりする。普通っぽくないんですね。でも音にすると非常に魅力的。そういうのを才能というのでしょうね」 リニューアル・オープンする横浜みなとみらいホールと、沼尻竜典音楽監督体制が始まった神奈川フィル。横浜の音楽の顔が、奇しくも今年、ともに新たな一歩を踏み出した。その両者の、まずは最初のコラボ。注目の秋だ。Ryusuke Numajiri/指揮ホールの新たな出発に大いなる祈りを込めて 海の見えるコンサートホールがいよいよ再開する。横浜みなとみらいホールは、ホール天井の耐震化などの大規模改修工事のため、昨年1月から長く休館していたが、10月に待望のリニューアル・オープン。開幕公演には神奈川フィルハーモニー管弦楽団が出演する。指揮者は、この4月から第4代音楽監督に就任した沼尻竜典。住まいが東横線沿線にあって横浜は馴染み深いという沼尻。中華街事情にもことのほか詳しい彼に聞いた。 吹奏楽の巨匠ヤン・ヴァン=デル=ローストの「横浜音祭りファンファーレ」で幕を開けるコンサート。沼尻&神奈川フィルが開幕プログラムに選んだのは、三善晃の管弦楽のための交響詩「連祷富士」(1988)とリヒャルト・シュトラウス「アルプス交響曲」。“山”つながりの2曲だ。 「メインに『アルプス交響曲』を選んだ理由のひとつはパイプオルガンです。ホールに備わっているパイプオルガンをあらためてクローズアップしたいということですね。『バンダ』と呼ばれる別働隊のブラス奏者たち、牛が首に下げているカウベルも含めた多数の打楽器も使われていて、豊かな色彩感と広いダイナミック・レンジを楽しんでいただける作品です。ホールの音響の良さをあらためて確認していただくこともできるでしょう。 そして単に壮大というだけなく、神奈川フィルの機能的な面を最大限に引き出せる名曲だと思います。神奈川フィルの進歩は著しい。僕は2013年にもここで神奈川フィルとこの曲を演奏しているのですが、たぶんあの時より格段にレベルアップした演奏を楽しんでいただけると思います」 三善晃は沼尻の作曲の師だ。「連祷富士」はテレビ静岡開局20周年記念の委嘱作品で、1988年9月に、小澤征爾指揮新日本フィルハーモニー交響楽団により静岡で初演された。ダイナミックなリズム語法が印象的な、祈りのエネルギーに満ちた作品。 「マグマのテーマ、風のテーマ、呪術的な祈りのテーマが出てきたりして、三善さんの作品の中ではわかりやすい。古代から日本人とともにあった富士沼尻竜典

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