eぶらあぼ 2022.6月号
117/133

第92回 「リトアニアでジャパン・デイズ」 先月書いたとおり、この原稿はリトアニアのカウナスで書いている。 2022年は日本とリトアニアの友好100周年。なかでもカウナスには第二次世界大戦時に日本領事館があり、ナチスに迫害されて逃げてきたユダヤ人のため約2000通の「命のビザ」を発給し約6000人の生命を救った杉原千畝領事代理のことは今も語り継がれている。 そのカウナスが欧州文化首都に選ばれ「Japan Days in Kaunas WA」という文化の交流フェスが開催されているのだ。様々な日本文化が紹介されるなか、オレは日本のダンスについてのレクチャーを行うために呼ばれたのである。また、リトアニアを代表するダンスカンパニー「AURA Dance Theatre」は、オレが推薦した鈴木竜が振り付けた新作を上演した。鈴木にとっては、これがヨーロッパでの振付デビューとなるそう。 AURAの芸術監督のビルーテ・レチュカイテ(Birute Letukaite)とオレはもう20年来の知り合いである。彼女はリトアニアがソ連から独立する2年も前の1989年からダンスカンパニーを作りダンスフェスティバルを開催している伝説的存在なのだ。今回もAURAのダンサーたちは1週間にわたるイベントの要所要所で活躍していた。 さて約1ヵ月滞在してクリエイションした鈴木の作品『Esybė(存在)』は、松本夏帆を含むAURAのダンサーたちに元NDTの飯田利奈子をゲストに迎えた総勢6人。どのダンサーも印象に残るキャラの強さ、高い身体能力と豊かな表現力で驚かされた。 『Esybė』では各ダンサーがそれぞれ30cmほどの人形を持つ。これは現代のネット社会での実像とアバターのようだ。だが「人形と人間の関係」は、ダンスを含め長く描かれてきた歴史がある。「仲の良かった者(人形)同士が、その背景にある大きなProfileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com114存在(ダンサー)によって愛し合い、傷つけ合い、再生する物語」にも受け取れる。リトアニアの観客には戦争を含めたロシアやバルト三国との歴史や、渦中のウクライナ危機など(リトアニアはEU加盟国の中でも率先してウクライナ支援・反ロシアを打ち出している。街中には至る所にウクライナの旗が掲げられていた)と重なって見えたかもしれない。もちろんもっと日常的な友人や家族関係としても。つまり観客のだれもが「自分の物語」として深く受け止められる作品だったのだ。鈴木の作り手としての新しい可能性が見えた。満場の観客はスタンディング・オベーションを贈っていた。すでに再演が決まっているという。 イベントは他にもいろいろあり、イングリッシュ・ナショナル・オペラ等でも活躍していた本田綾乃の舞い、フィンランド在住の舞踏家・五月ケンの振付作品、書道やマンガ、さらにアイヌの写真展など幅広く行われた。 むろんオレのダンス講座も、フェスの意向を汲んで「複合的な日本文化の中でのダンス」を幅広く深く語った。熱心に聞き入ってくれ、多くの質問も出て、充実のひとときであった。 そして帰国に際しては日本政府が要請する評判の悪いPCR陰性証明書のため、飛行機の搭乗拒否されそうになるのを力業で押し切っていくことになるのだが、それはまたいずれ語ろう。乗越たかお

元のページ  ../index.html#117

このブックを見る