eぶらあぼ 2022.04月号
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44Interview田中彩子(ソプラノ)五感を研ぎ澄ませ、時空を超えた音楽の旅へ 2019年Newsweek誌の「世界が尊敬する日本人100」に選出されるなど、世界的な注目を集めるコロラトゥーラ・ソプラノの田中彩子。最近では、21年12月に作曲家の渋谷慶一郎やサウンドアーティストのevalaとコラボレーションした「Music of the Beginning ─はじまりの音楽─」や、今年1月に国立能楽堂で上演したモノオペラ《ガラシャ》などが大きな話題を呼んだことは記憶に新しい。 3歳からピアノを学び、18歳で声楽に転向して単身ウィーンに留学。4年後の22歳の時にスイスのベルン州立歌劇場でソリスト・デビューを飾って以来、ウィーンを本拠地に活動を続けている田中だが、前述の2作品ともに自身でプロデュースした企画であり、単なる「歌い手」以上のキャパシティの持ち主だ。そんな田中がこの5月末から6月にかけて、日本全国5ヵ所でリサイタル・ツアーを開催する。ツアー・タイトルは「Coloratura Journey」。このタイトルを田中はこう説明してくれた。 「基本はクラシックですが、ピアソラやポピュラー・ソングに近いレパートリーやバリバリの現代曲まで、ジャンルを行き来するような選曲になっています。みなさまに曲とともに色々な時代、色々な場所に移動していただきたい、という思いを込めてこのタイトルをつけました」 プログラムの中に含まれる吉田文作曲の〈小さな歌〉は、吉田が田中から香る匂いをイメージして作ったのだという。 「人の思い出というのは香りと強く結びついている場合があります。そこで、曲を聴くことで思い出がよみがえり、それが香りと結びつくような作品をつくりたいと考えました。この〈小さな歌〉の他に吉田文さんの新曲も披露する予定ですが、こちらは私が好きな香水をテーマに作曲してもらっています。香水の意味やバックグラウンドを汲み上げつつ、香水についての私個人の思い出も含まれています。曲を聴いた方々に、“この曲の香りってあの香水を思い出すなぁ”と感じていただけたら嬉しいです」 人は視覚情報に支配されがちだが、「音」や「香り」という目に見えないものが逆に強い記憶となって残るという経験は確かにある。繊細な感覚を中心に置く音楽家ならではの発想といえるだろう。 「内に秘めた記憶を音に託して表すようなコンサートにしたいと思っています。五感を通して現在と過去を行き来するようなイメージも“ジャーニー”には含まれているのです」 実際の旅も大好きという田中だが、現地のものを食べ、現地の習慣に素直に従う、いい意味で「こだわらない」旅のスタイルが身上だ。 「国が変わると当たり前にあるものが田中彩子 ソプラノ・リサイタル 2022 〜Coloratura Journey〜5/28(土)14:00 福岡/FFGホール 問 KBCチケットセンター092-720-87176/2(木)19:00 大阪/住友生命いずみホール問 ABCチケットインフォメーション06-6453-60006/4(土)15:00 名古屋/三井住友海上しらかわホール 3/19(土)発売問 東海テレビチケットセンター052-951-9104(3/19のみ052-308-4878)6/8(水)19:00 札幌コンサートホール Kitara(小) 問 オフィス・ワン011-612-86966/10(金)19:00 東京/紀尾井ホール 問 チケットスペース03-3234-9999https://www.ayakotanakaofficial.com新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、公演やイベントの延期・中止が相次いでおります。掲載している公演の最新情報は、それぞれの主催者のホームページなどでご確認ください。取材・文:室田尚子手に入らなかったりするので、敢えてこだわりは作らないようにしています。その代わり音楽に対しては常にストイックでありたい。すごい人たちがたくさんいる世界なので、一瞬でも“これでいいか”と思ったら、その時点ですべての扉が閉ざされてしまうという危機感があるんです。自分が理想とするものを常に追い求めていくためには、すべての感覚をいつも研ぎ澄ましていなければならない。逆に音楽をやることで自分の感覚を鋭敏にしているというところもあるかもしれません」 こうした緊張感があるからこそ、彼女の歌声はいつも純粋で曇りがないのだ。そんな田中彩子が誘う「旅(ジャーニー)」へ、ぜひ出かけてみてほしい。きっと素敵なアルバムの1ページが刻まれるにちがいない。©Tadayuki Minamoto

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