eぶらあぼ 2022.04月号
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33取材・翻訳:池田卓夫 6月末、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場(MET)の管弦楽団「METオーケストラ」が11年ぶりに日本を訪れる。指揮は2018年からMET音楽監督を務めるヤニック・ネゼ=セガン。フィラデルフィア管弦楽団音楽監督も務める世界トップクラスの音楽家ながら、性格は気さく。共演者もファンも皆、「マエストロ」ではなく“ヤニック”と呼ぶ。来日に先立ち、ヤニックへのメール・インタビューを2月末に行った。 トンネルの先に光があるという感覚です。この冬はオミクロン株の猛威で文化にも厳しい状況が続きましたが、ようやく事態が好転してきたように思います。秋から冬にかけて、METが1公演のキャンセルもなしに公演を続行できたことは私の誇りです。春に向かって状況はさらに良くなるでしょう。 何ヵ月もの間、METのアーティストは一緒にいることができませんでした。そして今、私たちはすべてのリハーサルでマスクを着用、週3回のPCR検査を受けています。こうした挑戦は確かに仕事場の雰囲気を変えましたが、変わっていないのは、可能な限り最高のパフォーマンスをお届けし、絶対に最高水準の音楽を創造するんだという私たちの決意です。協調と卓越のスピリットには、一分の変わりもありません。 METとフィラデルフィア、双方の音楽家と一緒に仕事ができるのは、言葉に言い表せないほどの僥倖です。2つの組織を行ったり来たりするのは、確かに慌ただしい半面、何よりも爽快だといえます。フィラデルフィア管は最も偉大なシンフォニー・オーケストラのひとつ、METは世界最高のオペラ・カンパニーです。言うまでもなく、METは私の人格、芸術の両面において無数の意義を持ちます。カンパニーが私の“オペラの筋肉”を、満足のいく数多くの方法で、柔軟に動かしてくれます。 私が1つ目のプログラムで気に入っているのは、ミッシー・マゾーリからR.シュトラウス、ワーグナーまでの音楽のレンジ(幅)です。《ワルキューレ》第1幕に起用した歌手たち――クリスティーン・ガーキー、ブランドン・ジョヴァノヴィッチ、エリック・オーウェンズは、ワーグナー上演のドリーム・チームでしょう。ミッシーは今日の若い世代を代表する傑出した作曲家であり、近々METの舞台で彼女の作品を観られることを非常にうれしく思います。2つ目のオール・ベルリオーズ・プログラムは「幻想交響曲」がいつもそうであるように、信じられないほど刺激的なものになるでしょう。私が敬愛する仲間、ジョイス・ディドナートとの再会は、とても楽しみです。ジョイスは生まれながらのディド(注:オペラの役名)ですから、オペラ《トロイアの人々》の抜粋で彼女と一緒に仕事ができることを待ち遠しく思います。 日本の食事、文化、建築のすべてが大好きです。驚くほど現代的な美しさと歴史的なものが混在していて、他のどの国とも異なります。でも最も好きなのは非常に知識が豊かで情熱あふれる聴衆の皆さんです。寿司はその次かな(笑)。日本に“戻る”時、いつもワクワクします。今回の来日でも見たいもの、やりたいことがたくさんありますが、リハーサルと本番の間に全部をこなすのは難しいでしょう。香川県の直島へ行くのは私の夢ですが、それはオフの旅行にとっておきます。とにかく日本の皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。芸術への献身的姿勢に、いつも驚きと感銘を覚えます。お会いするのを心待ちにしています。Profile2018年、メトロポリタン歌劇場音楽監督に就任。12年よりフィラデルフィア管の音楽監督を務める。ロッテルダム・フィルでは音楽監督を務めた後、名誉指揮者に就任。ベルリン・フィルやウィーン・フィルに加え、首席客演指揮者を務めたロンドン・フィルとも密接な関係を築いている。BBCプロムスや、エディンバラ、ルツェルン、ザルツブルクなど多くの音楽祭にも出演。オペラではウィーン国立歌劇場、スカラ座、ロイヤル・オペラ・ハウスなど世界の一流歌劇場に客演している。―2022年2月現在のニューヨーク、とりわけ文化シーンの状況はいかがですか?―コロナ禍の前と後で、ヤニックさんのお仕事は変わりましたか?―フィラデルフィア管弦楽団との兼務、大変ではありませんか?―日本公演は2つのプログラムで臨みます。それぞれの聴きどころをお聞かせください。―10年以上前のザルツブルク音楽祭で初めてお会いした時、初来日時の印象をお聞きしたら「I love Sushi(お寿司、大好き)!」と即答されました。日本のどのようなところが、お好きですか? 日本のファンへのメッセージもお願いします。今のニューヨーク、トンネルの先に光がある感じです

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