eぶらあぼ 2022.04月号
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●【7月の注目オペラ・オーケストラ公演】(通常公演分) 今年は珍しくもウィーン国立歌劇場で7月公演がある。といっても劇場のオリジナル公演ではなく、ザルツブルク聖霊降臨祭音楽祭でお馴染みのバルトリとその仲間たちによる公演(ロッシーニ「イタリアのトルコ人」やロッシーニ・ガラ)だが、ウィーンのシーズン最後にこの内容は楽しめる。コンヴィチュニー新演出のショスタコーヴィチ「鼻」(ドレスデン・ゼンパーオーパー)も要注目公演。他にも、ベルリン州立歌劇場のプッチーニ「トゥーランドット」(メータ指揮)、チューリヒ歌劇場のワーグナー「トリスタンとイゾルデ」(ノセダ指揮)、パリ・オペラ座のグノー「ファウスト」(ヘンゲルブロック指揮)、ラモー「プラテー」(ミンコフスキ指揮)、ライプツィヒ歌劇場のワーグナー・フェストターゲ、英国ロイヤル・オペラの「カヴァレリア・ルスティカーナ」/「道化師」(カウフマン出演)など楽しみな公演も多い。 なお、オーケストラは、ほとんどが音楽祭中の公演として行われるので、特に通常公演としてピックアップするには及ばない。7月+夏の音楽祭(その1)の見もの・聴きもの■■■■■■128【ご注意】 新型コロナウイルスに加え、ロシアを巡る深刻な世界情勢が生じたこともあって、「夏の音楽祭」を含む各劇場の開催内容・出演者に今後変更の起こる可能性があります。最新情報は、各劇場等のウェブサイトでご確認下さい。●【夏の音楽祭】(7月分)〔Ⅰ〕オーストリア まずは「ザルツブルク音楽祭」。7月に恒例の「OUVERTURE SPIRITUELLE」シリーズの今年のテーマは「Sacrificium」(神への捧げ物)。このテーマの下に、クルレンツィス指揮グスタフ・マーラー・ユーゲント管、カンブルラン指揮クラングフォルム・ウィーン、ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、タリス・スコラーズ、ルクス指揮コレギウム1704、マキシム・パスカル指揮SWR響、サヴァール指揮ル・コンセール・デ・ナシオンといったアンサンブルが、古楽時代から現代まで宗教・世俗を超えた音楽世界を展開する。ザルツブルク音楽祭では豪華な歌手によるオペラ公演やオーケストラ公演に目を奪われがちだが、7月中のこのシリーズは、間違いなくこの音楽祭の存在価値を支えるコンテンツの一つと言って過言ではないだろう。もちろん、その他のモーツァルト「魔笛」(マルヴィッツ指揮)やプッチーニの「三部作」(ウェルザー=メスト指揮)、ティーレマン指揮のウィーン・フィル、エマールによるバルトーク中心のピアノ・リサイタルなども音楽祭を彩る要注目公演。 湖上オペラで有名な「ブレゲンツ音楽祭」では、祝祭劇場の方で上演されるジョルダーノ「シベリア」が珍しい。またウィーン響の演奏会では、岸野末利加の「箏コンチェ----------------------------------------ルト」も取り上げられる。「ケルンテンの夏音楽祭」では、AI(人工知能)を使ってベートーヴェンの交響曲第10番を作品断片から「創作」してしまうという神をも恐れぬ(?!)プロジェクトもある。〔Ⅱ〕ドイツ 「ミュンヘン・オペラ・フェスティバル」では、音楽監督ユロフスキー指揮によるペンデレツキ「ルダンの悪魔」やショスタコーヴィチ「鼻」、R.シュトラウス「ばらの騎士」などが「売り」となる公演であろうが、他にもベルリオーズ「トロイアの人々」(ジョヴァノヴィチ出演)、ヴェルディ「マクベス」(ルイージ指揮)、R.シュトラウス「カプリッチョ」プレミエ、「無口な女」(ショルテス指揮)といった注目オペラ公演や、クリスティ=レザール・フロリサン演奏会(ヨンチェヴァ出演)、ゲルハーヘルのヴォルフ歌曲ツィクルスなど、魅力的な演目を並べて、前音楽監督ペトレンコの去ったロスを埋めるべく奮闘しているように見える。「バイロイト音楽祭」は一昨年から2年間延びたインキネン指揮の「リング」プレミエ(7月中は「ラインの黄金」のみ)に加え、コルネリウス・マイスターの指揮で「トリスタンとイゾルデ」の新演出が追加されることになった。 4月からの開催となる「ルール・ピアノ・フェスティバル」は、7月にはキーシンやソコロフが登場して音楽祭の終幕を飾る。ソコロフは「ラインガウ音楽祭」にも登場。「キッシンゲンの夏音楽祭」ではヴァイオリンのイザベル・ファウストをソリストとするチェコ・フィル、ダヴィドセンを独唱とするウィーン響などが面白そう。「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」や「MDR音楽の夏」といった広域音楽祭は、コロナの影響か、以前よりも全体の公演規模がやや縮小している印象を受ける。とはいえ、ドイツで行われるロッシーニ中心の玄人好み音楽祭「ロッシーニ・イン・ヴィルトバート」は健在。今年も「アルミーダ」、「エルミオーネ」、「アディーナ」といった珍しい演目が用意されている。バーデン・バーデンの「夏の音楽祭」ではネゼ=セガン指揮のヨーロッパ室内管がメイン団体。〔Ⅲ〕スイス 例年通り「グシュタード・メニューイン・フェスティバル」と「ヴェルビエ音楽祭」という山岳スキーリゾート地で行われる代表的2大音楽祭を掲載した。ただし、後者については音楽監督のワレリー・ゲルギエフが急遽辞任するという混乱があり、最終的な公演内容はホームページでご確認いただきたい。前者では、7月中はヤーコプス=フライブルク・バロック管、プルハー=ラルペッジャータなどの古楽系アンサンブルに面白そうなものが並ぶ。クラリネットのアンドレアス・オッテンザマー(ベルリン・フィル首席)がチェロのガベッタやヴァイオリンのコパチンスカヤと組んだ興味深い室内楽アンサンブルもある。〔Ⅳ〕イタリア イタリアでは、ローマ歌劇場の夏の定番「カラカラ浴場跡」がバーンスタインの「ミサ」を演出付上演で取り上げる異色の企画。「フィレンツェ五月音楽祭」は、7月はメータ指揮のベートーヴェン「第九」などオーケストラ・コンサートが注目だが、5月、6月にはオペラの注目プレミエが並ぶ。玄人好みの選曲で毎年注目を浴びる「マルティナ・フランカ音楽祭」は今年もペドローロ「罪と罰」、カヴァッリ「セルセ」など食指を動かされる演目。「ヴェローナ野外音楽祭」は言わずもがなの有名野外音楽祭。〔Ⅵ〕フランス 今年の「エクサン・プロヴァンス音楽祭」はなかなかの充実ぶり。マルセイユ空港とエクサン・プロヴァンスの間のVitrolles(ヴィトロル)地区に事実上放置されていた黒いコンクリート作りの多目的ホールStadium de Vitrollesを使ったマーラー「復活」の演出付上演。サロネンが指揮し、カステルッチが演出し、クレバッサが歌うという、いかにもマニア好みの興味津々の企画だ。オペラでは、メッツマッハー指揮のR.シュトラウス「サロメ」、ピション指揮、宮城聰演出のモーツァルト「イドメネオ」、同じくピション指揮のグルック「オルフェとユリディス」(ベルリオーズ版)、ケント・ナガノ指揮のデュサパンの新作、阿部加奈子の指揮する現代オペラ「ポイント・ゼロの女」(エル=トゥルク作曲)、それに加えてサロネン=パリ管のメシアン「トゥーランガリラ交響曲」、ルセ指揮レ・タラン・リリクの演奏会など、どれを取っても「これはハズレだ」と思わせるような公演が一つもない。古楽系随一の夏の音楽祭である「ボーヌ・バロック音楽祭」や「サント音楽祭」、「モンペリエ音楽祭」、「ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティバル」といった夏の主力音楽祭の予定が本稿執筆時点で未発表なのは残念だが、ぜひ音楽祭ホームページを随時チェックしてみていただきたい。「オランジュ音楽祭」にはシャイー=スカラ座管が客演して、ヴェルディのオペラ序曲・合唱曲を披露する。〔Ⅹ〕東欧 東欧圏からは、プラハの東約170キロのリトミシュルで行われる「スメタナ・リトミシュル・ナショナル・フェスティバル」(6月9日-7月5日)でのチェコ・フィルの公演を取り上げてみた。会場のリトミシュル城は、ユネスコの世界遺産にも登録されている名勝地。すぐ隣にはスメタナの生家もある。本文ではチェコ・フィルの公演のみ記述したが、音楽祭全体はオペラから歌曲・室内楽までと幅広いので、次のURLでホームページを確認いただきたい(https://smetanovalitomysl.cz/program/)。(以下次号)(曽雌裕一・そしひろかず)(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)曽雌裕一 編2022年7月の

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