eぶらあぼ 2022.04月号
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116新しい印象/長尾洋史メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調、J.S.バッハ:シャコンヌ/廣津留すみれ&デア・リング東京オーケストラ中欧のフルート/出口清子&浦壁信二卒寿記念 川村英司 独唱会/川村英司&小林道夫ゴルトベルク変奏曲、ドビュッシーの前奏曲集、ハイドンのソナタに続く長尾洋史の「ピアニズム・シリーズ」第4弾は意外にもアルベニスの「イベリア」。スペインに根ざしたローカリティを踏まえつつ、それを近代的な和声法と絶妙に融合させたことにより普遍性を持つに至った「イベリア」だが、この長尾の演奏で聴く同曲は異演盤に比べて洗練された身振りがより強く感じられる。それは多層的なリズム要素の追求であったり、ドビュッシーやラヴェルに共通するような技術的側面においてである。詩情も十分だが、何よりも「モダニスト」アルベニスを浮き彫りにした快演と言えるだろう。(藤原 聡)近年のテレビ出演と唯一無二の経歴で知られる、廣津留すみれのデビュー盤。急な代役出演から実現した公演と録音のおかげで、やっと本格的に聴けた彼女のヴァイオリン、実にまっすぐでピュアな音。自分を良く見せようといった邪念は欠片もない。そこにジュリアード首席も納得の技巧が加わり、共演者や聴衆も惹きつけられてしまう存在感も伝わる。メンデルスゾーンは特殊な配置の管弦楽との交歓が美しく、室内楽のような手作り感にも好感。バッハの清新な歌による構築にも心洗われる。彼女の実演を体験したくなるし、いずれやむにやまれぬ表現が滲み出てくるときも楽しみだ。(林 昌英)パリのフルート作品で2枚のCDをリリースしてきた出口清子が、「中欧の」と題するアルバムを作った。ドイツ、オーストリアおよびボヘミアの古典から近現代までの作品、それも元来は他の楽器を想定された曲にも積極的に取り組んでいる。モーツァルトの鍵盤楽器とヴァイオリンのためのソナタ K.376や、ヴァイオリンやクラリネットで奏されることの多いシューマンの「3つのロマンス」などを、浦壁信二のピアノとともに、柔らかに気品に満ちた演奏で聴かせる。フルートのために書かれたライネッケのソナタ「ウンディーネ」は、艶やかで飛翔感に富んだ響きで魅了する。(飯田有抄)1950年代終わりにウィーンで学び、欧米や豪州でリート、オラトリオ歌手として活躍した名バリトン。約1年の延期を経て2021年4月に行われた卒寿記念のステージ(共演ピアニストの小林道夫も米寿の超ベテラン)を収録したDVDが登場。シューベルト「白鳥の歌」の4曲に始まり、シューマンのリュッケルトとハイネの詩による歌曲、子どもの頃から親しんでいたブラームス、そして“協会”も設立したヴォルフのメーリケ歌曲(批評家を揶揄する〈あばよ!〉が絶品)まで、楽譜の入念な解釈と母国語のように美しいドイツ語で魅了する。アンコールの日本歌曲も素晴らしい。(東端哲也)CDピアニズム4 アルベニス:《イベリア》12のアルベニス:「イベリア」12の新しい印象長尾洋史(ピアノ)CDCDDVDメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調/J.S.バッハ:シャコンヌ廣津留すみれ(ヴァイオリン/指揮)デア・リング東京オーケストラモーツァルト(モルガン編):ソナタ K.376/シューマン:3つのロマンス(ランパル編)、幻想小曲集 op.73(ジェンジェッシー編)/クライスラー(ビルテル編):愛の喜び/ライネッケ:ソナタ「ウンディーネ」/ドヴォルザーク(タルミ編):ソナチネ op.100出口清子(フルート)浦壁信二(ピアノ)シューベルト:「白鳥の歌」より〈愛の使い〉〈我が宿〉〈漁夫の娘〉〈鳩の使い〉/シューマン:君に捧ぐ、ベルザツァール/ブラームス:過ぎ去りし恋、我が女王様よ/ヴォルフ:「メーリケの詩による歌曲集」より〈祈り〉〈あばよ!〉/岡野貞一:ふるさと 他川村英司(バリトン)小林道夫(ピアノ)収録:2021年4月、豊洲シビックセンターホール(ライブ)野ばらレコーディングNREC-38 ¥3300(税込)録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9042 ¥3080(税込)収録:2021年9月、所沢市民文化センターミューズ アークホール(ライブ) 他N&FNF29601 ¥オープンプライスコジマ録音ALCD-3124 ¥3080(税込)

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