eぶらあぼ 2022.04月号
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112/イーヴォ・ポゴレリチレーガー:クラリネット・ソナタ集/小谷口直子&岡崎悦子/松波久美子シューベルト:即興曲集 D899、ピアノ・ソナタ第21番 D960/守重結加ポゴレリチ5枚目となるオール・ショパン・アルバムは、後期作品を集めたもの。夜想曲第13番の主旋律の、胸に突き刺さるような一音にはじまる。続く、一見甘く穏やかな夜想曲第18番にも、確かな闇がある。「幻想曲」では、透明感のある音の中に、時折ショパンが心から血を流すような音を織り交ぜ、短い中で劇的なファンタジーを表現する。ピアノ・ソナタ第3番は広いダイナミックレンジと大胆な緩急を持ち、ポゴレリチならではの足取りで音楽が進んでゆく。ショパンの音楽の美しい幻想とともに絶望感が存分に伝わり、聴き終えると、耳と心に重い余韻が残る。 (高坂はる香)京都市交響楽団の首席クラリネット奏者を務める小谷口直子が満を持して放つ新譜はレーガーのソナタ。非常に高度な内容を備えた名曲ながら晦渋な側面が強く、これを音楽的充実感を以て飽きずに聴かせられるのは既にして名手の証明である。本アルバムで小谷口はまさにそれを成し遂げているからだ。茫洋とした転調の連続が着地するまでの構成力、「伴奏」などとは表現できないピアノ(岡崎悦子の滋味に満ちた名演奏!)とクラリネットの複雑かつ精妙な絡み合いなど、これらの楽曲の特質が最高の水準で実現されており、透徹した目でレーガーの楽譜を読み込んだ成果がそこかしこに現れている。(藤原 聡)ルターの宗教改革(=1517年)500年を記念して、日本福音ルーテル宮崎教会に奉献されたオルガンでバッハを演奏したアルバム。楽器は日本では稀なヒルデブラント様式(18世紀中部ドイツ様式)によるもので、3基の「ふいご」が設置され、本作では製作者自ら人力で風を送っている。しかも「ふいご手」への演奏開始の合図=ふいご呼鈴が録音されているという興味深い内容だ。演奏者は同教会のオルガン奏者で、歴史的な楽器の奏法を実践している松波久美子、演目はバッハのコラール。巨大オルガンとは異なる音色や空気感が独特の味わいを与えてくれる。(柴田克彦)「心の支えであり、困難を共に乗り越えて来た大切な存在」。桐朋学園大からベルリン芸大修士課程に学んだ俊才ピアニストの守重結加は、シューベルトの作品をこう位置付ける。甘く切なく、時に刹那を愛おしむ、魅惑的なる調べ。最晩年…とは言っても、まだ30〜31歳の青年作曲家がしたためた佳品へ向き合う、守重の眼差しは常に優しい。そのプレイはffにあっても決して音を荒らすことなく、変幻自在のタッチで一つひとつの音やフレーズ全体の表現やバランスに気を配り、そっと寄り添ってゆく。澄み切った演奏空間の残響も音楽の一部へ採り込み、シューベルトの“心”を届けてくれる。(笹田和人)CDショパン:ピアノ・ソナタ第3番、夜想曲&幻想曲ショパン:夜想曲第13番 ハ短調、同第18番 ホ長調、幻想曲 ヘ短調、ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調イーヴォ・ポゴレリチ(ピアノ)CDCD宗教改革500年記念オルガンで聴くJ.S.BachJ.S.バッハ:「フーガの技法」より〈コントラプンクト Ⅰ〉、「おぉイェス、あなたは高貴な賜物」によるコラールと11のパルティータ、さぁ来てください 異邦人の救い主よ、おぉ 神の子羊よ 罪なく、私は神より離れません、いと高き神に栄光あれ、「イェス・キリスト、私たちの救い主」によるフーガ松波久美子(オルガン)横田宗隆(ふいご手)コジマ録音ALCD-1211 ¥3080(税込)SACDレーガー:クラリネット・ソナタ第1番〜第3番、ロマンス ト長調/R.シュトラウス:万霊節小谷口直子(クラリネット)岡崎悦子(ピアノ)シューベルト:即興曲集 D899、ピアノ・ソナタ第21番 D960守重結加(ピアノ)ソニーミュージックSICC 30593 ¥2860(税込)収録:2021年5月、王子ホール(ライブ)マイスター・ミュージックMM-4505 ¥3300(税込)オクタヴィア・レコードOVCT-00194 ¥3520(税込)

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