ぶらあぼ2022年3月号
97/121

CDCDSACDCD94親密なアンサンブルの理想形を知る思い。いずれも国内屈指の名手で、個人的にも親しいという川田知子と須田祥子による二重奏は、主張をぶつけ合うのではなく、丁寧に溶け込ませて作品の世界を作り上げる。各自の個性はたしかに出ているのに、音色の統一は万全、どちらの音かわからない瞬間さえある。「パッサカリア」「スターライト」では超絶技巧の応酬も楽しめるが、「2人で一体」の精神はいささかも変わらない。モーツァルトの名作、シューベルトの名編曲における、豊かな響きの美しく心地よいことといったら。シベリウスとフックスの佳品もうれしい発見となるはず。(林 昌英)ベルギーを拠点に活動するフラウト・トラヴェルソの柴田俊幸と、様々な楽器を自在に操る鍵盤奏者アンソニー・ロマニウクによるバッハ作品集。真性とされるフルート・ソナタ3曲に、奏者2人の創意が横溢するファンタジア等を交えた柔軟な内容だ。柴田は「現代のジャズ、ロック、ポップスの歌心を練り込んだ新しいバッハ像」と述べているが、基本的なテイストはピリオド楽器による真摯な音楽。そこに発想新たな装飾や即興を盛り込んだ、「18世紀の精神をリフォームした演奏」と言えるだろう。その点にバッハへのリスペクトを感じる、古楽ファン以外も注目のアルバム。 (柴田克彦)10年以上も共演を重ねてきたヴァイオリニストとギタリストによる鮮烈なユニットのデビュー盤。この編成で演奏されることの多い、アルゼンチンの作曲家プホールの「ブエノスアイレス組曲」を皮切りに、南米・スペイン音楽からバルトークの民俗舞曲までを4+6の10弦が艶やかに紡ぐ。編曲はまさに千変万化と言うべきで、すでに存在するヴァイオリン・パートをそのまま使用し伴奏をギターに代えたり、その逆もあったりと、奏者それぞれのアイディアが“煌めく二筋の光”の如く華麗に交錯。「オブリビオン」から始まる、聴き慣れていたはずのピアソラ名曲3連発も圧巻。(東端哲也)友田恭子のモーツァルトのソナタ集第6弾にして完結編。ソナタK.284では青春の瑞々しい楽想が躍動する。とりわけ巨大な変奏フィナーレは、アイディアが次から次へと湧き出て、実に楽しい。ソナタK.311も音色の煌めき、噴出するエネルギー、千変万化する表情、心の移ろいを焙り出すような静謐な緩徐楽章、生の喜びを謳歌するような快活なフィナーレと、とてもチャーミングだ。晩年の「デュポール変奏曲」も美しい。可愛らしい主題からの創意溢れる変容の数々。それを友田は実に新鮮に響かせる。第6変奏ミノーレ(短調)にはそこはかとない悲哀が滲み、第8変奏アダージョでも繊細な表情がとても味わい深い。(横原千史)川田知子(ヴァイオリン)須田祥子(ヴィオラ)J.S.バッハ/ロマニウク/柴田俊幸:サラバンドによるファンタジア(無伴奏フルートのためのパルティータBWV1013による)/J.S.バッハ:フルート・ソナタ BWV1035、同BWV1034、同BWV1030/ロマニウク:即興(レゾナンス・アルプス) 他柴田俊幸(フラウト・トラヴェルソ)アンソニー・ロマニウク(チェンバロ/フォルテピアノ)FUGA LIBERA/ナクソス・ジャパンNYCX-10272 ¥2970(税込)マイスター・ミュージックMM-4504 ¥3300(税込)コジマ録音ALCD-9227 ¥2750(税込)ヘンデル(ハルヴォルセン編):パッサカリア/コレッティ:スターライト/モーツァルト:二重奏曲 ト長調/フックス:二重奏曲 op.60-1,2,6,7,12/シベリウス:二重奏曲 ハ長調/シューベルト(ウォルフ編):野ばら、魔王、アヴェ・マリア、菩提樹プホール:ブエノスアイレス組曲/ファリャ(ラゴスニック/クライスラー/河野智美編):歌劇《はかなき人生》第2幕より〈スペイン舞曲第1番〉/バルトーク(レヴァリング編):ルーマニア民俗舞曲/ピアソラ:オブリビオン(啼鵬/河野編)、タンティ・アンニ・プリマ、天使のミロンガ 他デュオ・パッシオーネ【礒絵里子(ヴァイオリン) 河野智美(ギター)】アールアンフィニMECO-1069 ¥3300(税込)モーツァルト:ピアノ・ソナタ ニ長調 K.284、同 ニ長調 K.311、幻想曲 ニ短調 K.397(385g)、デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲 K.573、アダージョ ロ短調 K.540友田恭子(ピアノ)スターライト ヴァイオリンとヴィオラの二重奏/川田知子&須田祥子グラシア/デュオ・パッシオーネモーツァルト:ピアノ・ソナタ集 Vol.6/友田恭子J.S.バッハ:フルート・ソナタ集 バッハによるファンタジアとインプロヴィゼーション/柴田俊幸&アンソニー・ロマニウク

元のページ  ../index.html#97

このブックを見る