ぶらあぼ2022年3月号
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43Interview沢田蒼梧(ピアノ)医学の道を志すピアニストが奏でるショパンの描いた「生と死」取材・文:高坂はる香 昨年の第18回ショパン国際ピアノコンクールに参加し、2次予選に進出。現役医大生という背景もあって注目を集めた、沢田蒼梧。帰国後は実習で忙しい日々のようだが、3月、紀尾井ホールと逗子文化プラザホールでオール・ショパン・リサイタルを行う。 「逗子では新しい曲も選びましたが、紀尾井ホールのほうは東京初のソロリサイタル、しかもピアノはコンクールと同じShigeru Kawaiということで、練り上げたレパートリーを演奏します。コンクールへの挑戦の総まとめですね」 バラード第1番は、1次予選で最初に弾いた曲だ。 「高校1年生のとき、関本昌平先生(2005年ショパンコンクール第4位)から最初に習ったソロ作品で、重要な場面で弾いてきました。何度も壊しては創り直し、納得いく形に仕上げられた初めての曲。ショパンと向き合う上で核となった作品です」 加えて、3次予選に進むことができれば弾く予定だった「葬送ソナタ」も披露する。 「とにかく好きなのが第1楽章。焦燥感がピークになったところで第2主題が現れ、穏やかな心象風景が広がる…この主題が好きで、たまに鼻歌で歌ってしまうほど(笑)。ドラマチックで新鮮で、いつも弾いていたい作品です」が番組を飛び出して活動している。4月にはHakuju Hallでの定期シリーズ2回目の公演を開く。1年前の初回は弦楽四重奏のバイブルであるベートーヴェンに焦点を当て、田中カレンの関連作品を組み合わせた興味深い構成だった。今回もベートーヴェンの第2番からスタートして、シューマンの第1番、ブラームスの第2番と、ロマン派に伸びていく魅力的なプログラムで勝負。4/19(火)19:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 https://hakujuhall.jp ちなみにコンクールでは続けて「子守歌」を弾き、「死から生」の流れを描くつもりだったという。 「医学生っぽいですよね(笑)。今度のリサイタルでは、子守歌でなくノクターン op.27-2を続けますけれど。いずれにしても『葬送』は不思議な余韻が残る曲なので、プログラムの最後に弾く気持ちにはなれなくて」 ショパンの死生観が表れる作品でもありそうだが、どう感じるのか。 「精神科医のキューブラー=ロスは、人間の死の受容過程には『否認、怒り、取引、抑うつ、受容』の5段階があるとしています。その意味で、晩年の『舟歌』などは受容にあたると感じますが、『葬送』の頃はまだ動揺や怒りの段階でしょう。僕はまだ人の命と向き合う経験をそこまで多くしていないので、安易に語ることはできませんが」 特殊な経歴だからこその音楽が確かにそこにあるのだろうが、本人は「本沢田蒼梧 ピアノ リサイタル3/9(水)14:00 逗子文化プラザなぎさホール 3/13(日)14:00 紀尾井ホール問 湘南クラシックアーティストパラダイス0467-24-5695 https://shonan-cap.com来、医学と両立しているからと特別扱いをしてもらうべきではないと思う」と話す。 「そのおかげで応援してくださる方が増えるのは嬉しいですけれどね。コンクールで皆さんの演奏を聴き、音楽一本で追い込む凄さも改めて感じました。ピアノ、医学、両方の畑で認めてもらえるよう、勉強を続けていきたいです」前回公演より ©Hakuju Hall文:宮本 明The 4 Players Tokyo 第2回音楽番組から誕生したクァルテットの進化を聴く 指揮者・藤岡幸夫が司会の「エンター・ザ・ミュージック」(BSテレ東/毎週土曜朝8:30)は、地上波より視聴率に縛られにくい民放BSの身軽さを活かし、入門者向けの名曲紹介の域にとどまらず、ときにマニアックなテーマも平然と取り上げる骨太な音楽番組だ。そこから生まれた弦楽四重奏団が「The 4 Players Tokyo」。戸澤哲夫、遠藤香奈子(以上ヴァイオリン)、中村洋乃理(ヴィオラ)、矢口里菜子(チェロ)という、別々のオーケストラに所属し、アラサー、アラフォー、アラフィフと世代も異なる四人

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