ぶらあぼ2022年3月号
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CDCDCDCD98タイトルはハンガリー語で「私のお気に入り」。ピアノの山中歩夢とチェロの中条誠一はハンガリーで出会い共にリスト音楽院で学んだ。となればまずはコダーイを紹介しよう。表面的な華美さに重きをおかない渋く硬質な音色と格調高い中条の歌い回しは、いささかナイーブな楽曲を洗練された形で提示し聴き手の背筋が伸びる。後藤沙祈子のヴァイオリンもまた情に溺れ過ぎない節度が好ましく、それはチャイコフスキーで効果的に生かされていて通俗さをまったく感じさせない。最初と最後に置かれた沙漢昆と朱昌耀、あるいはスヴェンセンやドヴォルザークもビターな表現で繰り返し聴く気を起こさせ、まさに大人の演奏!(藤原 聡)ここにあるのは、ほとばしる感性と心地よい洗練性だ。幅広いレパートリーを武器とする実力派・長尾洋史が取り組んでいる「ピアニズム」シリーズ。大バッハとドビュッシーに続く第3弾では、ハイドン中期の5つのソナタを取り上げた。粒立ちの良いタッチはフレーズごと、いや、もはや一音ごとに表情を繊細に変えて、ハイドンが凝らした作曲技法の妙のみならず、急速楽章におけるスピード感、緩徐楽章の滋味、メヌエットの優美さ、さらには音楽的ウィットまで、余さず掬い取ってゆく。「ハイドンなんて、つまらない」。そう思い込んでいる向きにこそ、ぜひ聴いてほしい。 (寺西 肇)ミキシングまでが音楽作りというのは、ポピュラーその他では常識。その当たり前に、現代音楽界の第一線で活躍する作曲家がまじめに取り組んだら、こんなに魅力的な世界が出現したという好例が「TRANCE」と「ドレミのうた」。即興演奏や音の断片をコラージュしながら、現実の音響現象の彼方に生き生きとした、ユーモラスな仮想現実を作りだした。ピアノ協奏曲「花火」は、「TRANCE」の魅力が、単に素材を積み上げるのではなく自在な音の身振りを過たず捕まえ定着させる作曲家のたしかなメチエに根差していることを確認させてくれる。坂東祐大の現在地を鮮やかに浮かび上がらせた。(江藤光紀)西本幸弘のシリーズ第7弾は「開放」がテーマ。圧倒的なのはベートーヴェンのソナタ第7番。冒頭からハ短調の楽想の緊迫感が尋常でない。渦巻動機や音階上行がそれに拍車をかける。緩徐楽章の優しい表情は息抜きとなる。コーダの突然の音階上昇の嵐はちょっとした驚き。スケルツォは楽しげであるが、sfの強打の対比が生きる。終楽章はイライラした主題から緊張の世界となり、最後まで一気に駆け抜ける。見事だ。ドヴォルザークのソナチネは、のびやかな歌が美しく、溌溂としたリズムも弾む。そこには屈折した心や静謐な祈りもある。アラール《椿姫》幻想曲はオペラの場面を思い出させて秀逸。(横原千史)録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9041 ¥3080(税込)沙漢昆:牧歌/コダーイ:マジャル・ロンド/スヴェンセン:ロマンス op.26/ドヴォルザーク(クライスラー編):我が母の教えたまいし歌/チャイコフスキー:懐かしい土地の思い出/ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 第3楽章/朱昌耀:長相思 他後藤沙祈子(ヴァイオリン)中条誠一(チェロ)山中歩夢(ピアノ)コジマ録音ALCD-9228 ¥3080(税込)ハイドン:ピアノ・ソナタ第34番 ニ長調、同第32番 ト短調、同第38番 ヘ長調、同第33番 ハ短調、同第54番 ト長調長尾洋史(ピアノ)坂東祐大:TRANCE、花火、ドレミのうたU-zhaan(タブラ) 石若駿(ドラム) 多久潤一朗(フルート) 上野耕平(サクソフォン) 中川ヒデ鷹(バスーン) 尾池亜美(ヴァイオリン) 永野英樹(ピアノ) 杉山洋一(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団 Ensemble FOVE 他収録:2017年9月、サントリーホール(ライブ) 他日本コロムビアCOCQ-85575〜6(2枚組) ¥3740(税込)アラール:歌劇《椿姫》幻想曲/クライスラー:プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ/ドヴォルザーク:ソナチネ ト長調/ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第7番 他西本幸弘(ヴァイオリン)大伏啓太 北端祥人(以上ピアノ)収録:2020年12月、仙台市宮城野区文化センターPaToNaホール(ライブ) 他フォンテックFOCD9862 ¥2970(税込)ピアニズム3 ハイドン:中期ピアノ・ソナタ集/長尾洋史Kedvenceim―小品集―/後藤沙祈子&中条誠一&山中歩夢TRANCE/花火/坂東祐大OLINable ディスカバリー vol.7VI■■■■■■■■■■/西本幸弘

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