eぶらあぼ 2022.1月号
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54阪 哲朗(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団“こと”で聴く和とウィーンの繋がり文:藤原 聡第737回 東京定期演奏会〈秋季〉 1/14(金)19:00、1/15(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://japanphil.or.jp その実力に比して名前が未だ幅広く浸透していなかったのが阪哲朗ではないか? その理由は主な活躍の場が音楽総監督を務めたアイゼナハやレーゲンスブルクの歌劇場などを中心とした欧州にあったためと思われる。 ところが2019年4月、山形交響楽団の常任指揮者就任後、様相が変わってきた。そして、大評判となった2021年1月のびわ湖ホールにおける《魔笛》や同年2月の新日本フィル客演でのモーツァルトやJ.シュトラウスIIでの名演が阪哲朗の名前を大きく知らしめることとなった。オペラではそのドラマ性を十全に発揮させて日本人離れした躍動感のある演奏を聴かせ、あるいはシンフォニーにおいては虚飾のない緻密で質実剛健な響きを現出させるその手腕は掛け値なく世界最高レベル。 そして、その阪がダレル・アンに代わり、この度日本フィル第737回東京定期演奏会の指揮台に立つ。プログラムはシューベルトの「ロザムンデ」序曲とブラームスの交響曲第3番、さらには石井眞木による箏のためのコンチェルト「雅影」およびこの作品と縁が深い古典の箏曲「乱輪舌(みだれ)」。シューベルトの「ロザムンデ」(魔法の竪琴)と「雅影」と「乱輪舌」は和洋の“こと”で繋がり、守屋多々志による絵画「ウィーンに六段の調(ブラームスと戸田伯爵極子夫人)」に描かれる「ブラームスはウィーンにおいて外交官の妻が奏でる箏の音を楽しんだ」という史実によって、後半のブラームスも箏と繋がるというコンセプチュアルなもの。知性と感性を大いに刺激されるコンサートとなること必至。三浦謙司 ピアノ・リサイタル多様な芸術性が高度に凝縮された時間文:飯田有抄2/25(金)19:00 めぐろパーシモンホール(小)問 めぐろパーシモンホールチケットセンター03-5701-2904https://www.persimmon.or.jp ロン・ティボー・クレスパン国際コンクールで優勝を飾ってから早2年。実力派として期待を寄せられている若手ピアニストの三浦謙司は、ベルリンを拠点としながら、着々と自身のキャリアについて考えを巡らせ、活動の歩を進めている。コロナ禍において立ち止まらざるを得ない時間の中にあっても、ピアニストとしての活動を長期的な展望で捉えており、この秋にはCD録音にも精力的に臨んでいる。そうした中で練られた今回のプログラムは、実に興味深い。 バッハの独奏用協奏曲を前半と後半それぞれに置き、さらに途中に「幻想曲とフーガ」BWV904を配して、ハイドン、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、リスト、ストラヴィンスキー、つまり古典から近現代へという流れの場面転換を行う。また前半は、ニ短調とその近親調でまとめているという調性的なテーマも窺えるし、ベートーヴェンのバガテル「エリーゼのために」を差し入れているあたりも心にくい。後半はバッハの華やかな「イタリア協奏曲」から、ワーグナー=リストの「イゾルデの愛の死」という濃密なロマン派の響きを聴かせ、ストラヴィンスキーの2作のバレエ音楽の世界へといざなう。「プルチネッラ」からの〈セレナータ〉は、三浦自身による編曲版だ。締めくくりは「ペトルーシュカからの3楽章」。技巧的な難曲として知られる本作を、多彩なタッチと豊かな解釈力を持つ三浦がどう聴かせてくれるか楽しみだ。 ©Jeremy Knowles遠藤千晶阪 哲朗 ©Florian Hammerich

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