eぶらあぼ 2022.1月号
52/125

49藤岡幸夫(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団シューベルトの幻の作品を発見!?文:柴田克彦第67回 ティアラこうとう定期演奏会 1/29 (土)15:00 ティアラこうとう問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 https://www.cityphil.jp シューベルトのピアノ協奏曲の世界初演(!?)……これは大ニュースだ。実はこの曲、シューベルトの最後のピアノ・ソナタ第21番を吉松隆が編曲したもの。吉松本人によると、「『あまりに大好きな曲なので、オーケストラと一緒に鳴らしてみたい』…という純粋な遊び心」から約20年前に編曲したものの、「お蔵入りになってしまった幻の作品」だという。吉松といえば、現代にあって抒情的な調性音楽を多数生み出し、東京2020オリンピックの開会式でも交響曲「地球(テラ)にて」が使われて話題を呼んだ人気作曲家。当作を発掘して指揮するのがその作品に傾注してきた“吉松の伝道師”藤岡幸夫、ピアノ独奏が吉松作品とシューベルトの第21番を大の十八番にしている詩情豊かな名手・田部京子とくれば、この上なく条件が揃っている。ちなみに藤岡と田部は吉松のピアノ協奏曲「メモ・フローラ」を録音して美演を聴かせているし、吉松は当編曲でも田部の演奏を想定したというから、今回への期待はさらに増す。 この公演は東京シティ・フィルの1月のティアラこうとう定期。後半にはシベリウスの交響曲第1番が披露される。シベリウスは吉松も藤岡も愛してやまない作曲家。第1番は旋律美と北欧の空気感に溢れた名作だ。藤岡は首席客演指揮者を務める同楽団で、伊福部昭「サロメ」をはじめエキサイティングな快演を連発。充実著しい東京シティ・フィルに新鮮な活力をもたらしているだけに、ここも濃密でパッショネイトな音楽を堪能させてくれるに違いない。 あらゆる意味で要注目の当公演に、多くの人に足を運んでもらいたい。東京オペラシティ Bビートゥーシー→C 岩川 光(ケーナ)ケーナで新風を吹き込む異次元のアーティスト登場文:江藤光紀1/18(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 https://www.operacity.jp バッハと現代をつなぐプログラミングでこれからの若手の演奏に耳を傾ける「B→C」シリーズに、一風変わった奏者が登場する。ケーナの岩川光である。 岩川は音楽とは無縁の家庭に育ったが、6歳の時「コンドルは飛んでいく」の音色に惹かれ、ペルーの行商人から楽器を買ったのがこの道に入るきっかけになった。ボリビアやアルゼンチンで演奏の伝統を直接身に付けて実力を蓄え、バンドネオンやギターの巨匠たちと南米各地でコラボするようになった。 岩川にはリコーダー奏者としての経験もあり、民族音楽の枠を超えて、バロックから現代ものまでジャンルの横断にも意欲的だ。古楽団体との共演やバッハのアルバム・リリースなど、ケーナの可能性の拡張にも積極的に取り組み、そうしたキャリアがB→C出演へとつながったのだろう。 経歴を反映してプログラムも多彩である。バッハ、ビーバーらバロック、ドビュッシー、ブリテンといったモダン、オペラシティゆかりの武満徹、そして岩川の親友でもある二人のアルゼンチン作曲家への委嘱新作、さらには自作のハチャ・ケーナ(通常のケーナよりも音域が低い)による自作自演まで幅広い。締めはピアソラ。やはり南米にはこの人が似合う。 ケーナは木製の管に切り込みを入れたエアリード型の楽器で、息を吹き込んで空気を震わせる。歴史的には異界との媒介を果たしてきた楽器であり、岩川も大地と直接つながる感覚を覚えるという。現代社会では失われてしまったヴァイタルな感性で、異端児がクラシックに新たな命を吹き込む。©Reiko SHIMIZU田部京子 ©Akira Muto藤岡幸夫 ©森口ミツル

元のページ  ../index.html#52

このブックを見る