eぶらあぼ 2022.1月号
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47上原彩子 デビュー20周年 2大協奏曲を弾く!2/27(日)14:00 サントリーホール問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 https://www.japanarts.co.jp上原彩子(ピアノ)2つの人気協奏曲でアニヴァーサリーイヤーを飾る取材・文:長井進之介Interview 第12回チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で第1位を獲得して以来、進化し続けるピアニストの上原彩子。2022年にデビュー20周年を迎えるにあたり、20年から3年計画のリサイタルを行っている。22年2月に開催される最終回では、チャイコフスキー国際コンクール以来の、1公演で2曲のピアノ協奏曲の演奏に挑む。曲目は上原を語る上で欠かせないチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番、そしてラフマニノフのピアノ協奏曲第2番だ。管弦楽は原田慶太楼指揮の日本フィルハーモニー交響楽団。 「チャイコフスキーは人生で一番多く演奏してきた曲ですが、弾くたびに発見がありますね。ラフマニノフは30代に入ってからよく演奏するようになりました。初めて弾いたのは20代の頃でしたが、あまりうまくいかなかったこともあるんです」 ずいぶん意外な言葉が出てきたが、それにはこんな理由があるという。 「ラフマニノフは技術的に難しいのはもちろん、オーケストラの響きが厚いので音量も必要ですし、オーケストラとのアンサンブルが難しい。一方、チャイコフスキーはオペラのプリマドンナになったような気分で、オーケストラにのせてもらえる部分がとても多いのです。ラフマニノフは、自分が引っ張りつつ、オーケストラを“支える”ことが必要で、距離感を掴むのに一時期苦労しました。でも、経験を重ねていくうちにそのやりとりがすごく楽しくなってきて。私の弾き方一つでオーケストラの音色も変わっていくのがとてもよくわかるんです」 実際に対面してみると、ステージの印象とはずいぶん違って小柄な上原。常に会場に美しく響き渡る音色の秘密はどこにあるのだろう。 「音をピアノから“引き出す”ことを意識して、響かせることは大切にしてきました。同じ音量でもよく通る音とそうでない音がありますし、和音のバランスでも変わってきます。常にどうすれば会場の皆様に届く音を出せるのか。それは人一倍考えていると思います。この20年で弾き方もずいぶん変わりましたし、軽い筋トレやランニングをするなど身体づくりは意識的に行うようにしています。10代の頃、ロストロポーヴィチから“運動はしないとだめだよ”と言われて、その時はピンとこなかったのですが、最近、その言葉の意味がよくわかります」 記念すべき年を迎え、一大プロジェクトに挑む上原だが、これからも歩みを止めることはない。今後は新しい曲やあまり取り上げてこなかった作曲家を積極的に取り上げ、新たなレパートリーに挑戦するという。2022年以降の上原の活動から目が離せない。トリオ・ヴェントゥス(ピアノ三重奏団) リサイタル ツアーシューベルトと近現代作品を対比させる選曲の妙文:江藤光紀 トリオ・ヴェントゥスは同時期にベルリンに学んだ3人が結成したアンサンブル。現在、ソロ・室内楽とそれぞれの道を歩み始めているが、そんな3人が再びステージ上に集った時、どんな風が生まれるのか――「ヴェントゥス(風)」にはそんな思いが込められている。 宮崎―東京―大阪を巡る今回のツアーは、冒頭と末尾にシューベルトのトリオを置いて、真ん中の近現代作品を挟むというコントラストを効かせたプログラム構成。メインに据えるシューベルトのピアノ三重奏曲第2番では歌心だけではない、作曲者自身の死への予感がもたらす暗さ、寂寥感にも耳を傾けたい。1/16(日)15:00 宮崎市民プラザ オルブライトホール 1/21(金)19:00 Hakuju Hall1/24(月)19:00 大阪/ザ・フェニックスホール 問 ヤタベ・ミュージック・アソシエイツ03-3787-5106 https://www.trioventus.com左より:廣瀬心香、鈴木皓矢、北端祥人 一方、近現代作品は3公演とも演目が異なる。ショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第2番(宮崎)では、躍動感と諧謔・風刺の落差が鮮やかに描き出されることだろう。東京公演ではリーム「見知らぬ情景III」やマルティヌー「5つの小品」に加え、精緻な書法を持ち味とする鈴木輝昭の新作初演も。ドイツ仕込みの3人がリームやヘンツェ「室内ソナタ」(大阪)にどうアプローチするかにも着目したい。©武藤 章

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